4-1 世界一明るく強い電子ビーム源の実現へ

−次世代光源のための500 kV光陰極直流電子銃の開発−

図4-2 分割型セラミック管とガードリング

図4-2 分割型セラミック管とガードリング

(a)セラミックの中央部にサポートロッドが通り、先端部にカソード電極が設置されています。カソード電極の先端部に光陰極が固定され、そこへレーザー光を照射することで電子ビームが生成されます。
(b)セラミック管にはその分割部にガードリングを設け、電界放出電子が管壁に直接当たらないようにします。

 

図4-3 高電圧コンディショニング履歴

図4-3 高電圧コンディショニング履歴

コンディショニングとは微小な放電を繰り返しながら、電極表面の放電しやすい箇所をなくし、安定にかけられる電圧を徐々に上げていく過程です。

これまでの光源に比べて3桁以上強い光源(次世代光源)の実現により、放射性同位体の非破壊分析,貨物中の核物質や爆発物の検知,化学反応リアルタイム観測,生体細胞の高分解能イメージングが可能になります。この次世代光源は、電子線加速技術を基盤とするものであり、世界中の研究機関で研究開発が活発に進められています。

この光源を実現するための最も重要な鍵となる技術が、光陰極を用いた電子銃でのビーム生成技術です。この電子銃では、明るく強い電子ビームを得るために、レーザー光で陰極内の電子を励起して電子ビームを生成する光陰極と直流高電圧による加速を採用しています。陰極で発生させた電子同士の反発力のために電子ビームがぼけてしまうので、反発力を十分に小さくするために500 kV以上の加速電圧が必須とされてきました。しかし、この電子銃で加速電圧500 kVを達成することは容易ではなく、世界の次世代光源開発計画が開始された2002年頃から現在まで、様々な開発が行われてきましたが、350 kVが最大の加速電圧でした(米国ジェファーソン研究所、2005年)。

光陰極電子銃で明るく強い電子ビームを得るためにカソード−アノード電極間隔を短くする必要があり、セラミック管中央をサポートロッドが貫通する構造を取らざるを得ませんでした(図4-2(a))。この構造のために加速電圧500 kV以上を印加しようとすると、サポートロッドからの電界放出電子を起因とする放電によりセラミック管が破損するという問題がありました。

私たちは、電圧を一様に印加できる分割型セラミック管とその中央に設置されるサポートロッドからの電界放出電子がセラミック管壁に衝突することを防ぐためのガードリングを採用し(図4-2(b))、その形状の最適化を行いました。

その結果、100時間以上をかけて慎重に高電圧コンディショニングを行い、電源の最大出力電圧550 kVまでのコンディショニングを達成し、加速電圧500 kVの安定な印加に成功しました(図4-3)。この成功により、世界一明るく強い電子ビームが発生可能となり、次世代光源の実現が可能になりました。