図4-4 対向入射型飛翔鏡実験のセットアップ
図4-5 飛翔鏡による反射率の向上
2003年に私たちは強力なレーザー光を用いて、ほぼ光速で進行する飛翔鏡を発明しました。飛翔鏡はプラズマ電子が集群したもので、プラズマ中を進行するレーザーの群速度とほぼ等しい速度を持ち、光を反射する鏡として使えます。したがって、反射光の集光強度を飛躍的に高める装置や短パルスのコヒーレントX線変換装置として期待されています。2007年にはこのような飛翔鏡が生成できること、及びレーザー光を反射できることを示しましたが反射された光子数は理論値よりも低いものでした。
このため、飛翔鏡からの反射光子数を増やすために、次の二つの改良を行いました。最初の実験では、レーザー光の出力が3 TW弱と低かったため、より高出力の10 TW J-KARENレーザーを用いることにしました。さらに、最初の実験ではレーザー光を斜めから入射させていましたが、二つのレーザー光を対向で入射させるようにしました。
対向入射型の実験では、飛翔鏡を作るレーザー光(ドライバー光)と反射させるレーザー光(ソース光)を集光径30 μm以下の精度で衝突させる必要があります。このために、新たに戻り光の一部を取り出して観測する装置を開発しました。また、対向入射実験において斜め方向に反射される飛翔鏡からのレーザー光を計測するために極端紫外光(XUV)の分光器を開発し、図4-4のように設置しました。
二つのレーザー光を衝突させるように調整した結果、極端紫外分光器で12.5〜22.0 nmの範囲の広いスペクトルを観測しました。これから飛翔鏡の速度は光速の98%から99%程度と計算できました。これはプラズマ密度などから求めた値と一致しています。また、測定により得られた反射光子数は、7.9×109個となり、飛翔鏡の光子数に対する反射率は2×10-5となりました。この反射率は、図4-5に示すように、理論的に予測される飛翔鏡の反射率のおよそ半分程度であり、飛翔鏡法が理論での予測にほぼ一致する反射率を持つことが実証されました。今回新たに構築した対向入射型飛翔鏡を使って得られた光子数は2007年に得られた最初の実験よりも106倍多いものです。これにより、飛翔鏡法により、高輝度X線源が実現できる見通しが立ちました。