4-3 軟X線の「偏光」を明らかに

−軟X線領域における偏光計測技術−

図4-6 軟X線偏光解析装置が実現可能な光学配置(全四種類)の模式図

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図4-6 軟X線偏光解析装置が実現可能な光学配置(全四種類)の模式図

反射型や透過型の偏光子を組み合わせた光学配置による偏光計測が可能です。検出器とその直前にある偏光子を 固定した状態で反射光または透過光の周りに一回転させることで(反射光強度または透過光強度の方位角依存)、偏光子の性能と軟X線の偏光状態を同時に定量評価することができます。

 

図4-7 波長13nm近傍の放射光源の直線偏光度

図4-7 波長13 nm近傍の放射光源の直線偏光度

MoとSiから成る反射型多層膜偏光子を二つ組み合わせて得られた結果です(図4-6の[反射]−[反射]の光学配置)。放射光源の直線偏光度は波長に対してほぼ一定値(85〜87%)であることが分かりました。この値は理論値ともほぼ一致しました。

偏光した軟X線は、物質材料研究、特に、磁性物質の磁気情報を得るために有用です。偏光を利用する研究において偏光に関する情報(偏光状態)は重要なパラメータであるため、それを正確に把握しておかなければなりません。偏光状態は、偏光を制御するための光学素子(偏光子)を用いた計測手法によって得ることができますが、軟X線領域の偏光子の開発は可視光領域に比べて十分とはいえず、これまで偏光状態を定量的に評価するのは困難でした。その理由のひとつに偏光子の性能を評価するための装置がほとんどなかったことが挙げられます。そこで、本研究では偏光子を開発し、それを用いて軟X線領域の放射光源の偏光状態を明らかにすることを研究目的として、軟X線偏光解析装置を開発しました。

図4-6に、開発した偏光解析装置が実現できる光学配置(全四種類)を示します。二つの偏光子を組み合わせた偏光計測を行うことで、軟X線(一般に放射光源が用いられます)の偏光状態だけでなく、偏光子の性能も同時に評価することができます。また、偏光子の位置や角度を精密に設定できる等、軟X線領域の偏光解析装置としては世界唯一となる特徴を有しています。

軟X線領域では二種類の物質をnm程度の厚さで交互に何層にも積層した多層膜と呼ばれる光学素子が偏光子として機能し、特に、波長13 nm近傍ではモリブデン(Mo)とケイ素(Si)から成る多層膜が反射型偏光子として有効であることが知られています。これを多層膜偏光子といいます。私たちは、多層膜偏光子を作製し、偏光解析装置を使って軟X線領域の放射光源の偏光計測(直線偏光度の測定)を実施しました。測定は、図4-6に示した[反射]−[反射]の光学配置で行いました。その結果、波長13 nm近傍の放射光源は波長によらずほぼ一定の直線偏光度(85〜87%)の偏光状態であること(図4-7)、作製した多層膜は高性能な反射型偏光子として機能していることを明らかにしました。本研究で開発した軟X線偏光解析装置を用いることで、偏光子の性能及び軟X線の偏光状態を定量的に評価することができるようになりました。このことは、軟X線領域における偏光計測技術の獲得に成功したことを意味します。

今後は、直線偏光度だけでなく、これまで測定例がほとんどなかった円偏光度の定量評価に貢献できると期待されます。