7-4 ヘリウム蓄積・放出による燃料ミクロ組織の変化

−結晶格子とペレットの膨張・焼鈍相関を明らかに−

図7-11 室温での格子定数とペレット寸法変化の比較

図7-11 室温での格子定数とペレット寸法変化の比較

横軸は、初期金属原子のうちα崩壊した原子の割合を意味し、約0.03%α崩壊した時点で膨張が飽和した後は、He蓄積量が増えても膨張しません。伸び率の最大誤差を誤差棒で示しました。

 

図7-12 焼鈍による格子定数とペレット寸法回復挙動の比較

図7-12 焼鈍による格子定数とペレット寸法回復挙動の比較

各焼鈍温度での回復を、未損傷時に対する伸び率で表しています。約800 ℃以上から結晶粒内Heの粒界への拡散・気泡形成が進行し、1160 ℃加熱後には体積で0.5%に相当する膨張が観察されました。

 

図7-13 1160 ℃焼鈍後の(Pu,Cm)O2ペレット破面組織観察像(二次電子像)

図7-13 1160 ℃焼鈍後の(Pu,Cm)O2ペレット破面組織観察像(二次電子像)

結晶粒界に沿って100〜200 nmの気泡痕が密に存在し、粒内のHe原子が拡散により粒界に集まり、気泡を形成したことが分かります(a)。気泡が一部連結し、He放出経路を形成しています(b)。粒内破面には気泡痕は見られません。

核燃料中に生成するNp,Am,Cm等のMAを再処理で回収し、再び燃料に添加して燃焼させることが国内外で検討されています。原子力機構では、UとPuからなる高速炉用混合酸化物(MOX)燃料にMAを添加したMA-MOX燃料の基盤研究を進めています。

MA-MOX燃料には238Pu,241Am,244Cm等の比較的半減期の短いα崩壊核種が含まれるため、燃料製造後の保管中に、自己照射損傷による格子欠陥とHe原子の蓄積が急速に進みます。自己照射損傷による結晶格子の膨張は既知の現象ですが、焼結体である燃料ペレットの寸法変化についてはあまり知られていませんでした。また、原子炉での燃焼時には、蓄積されたHeが高温で放出されると予想され、その際の燃料組織への影響を調べておく必要があります。

ここではMA-MOX燃料を単純化した系として、Cmを5 mol%添加した(Pu,Cm)O2ペレットを調製し、以下の試験を行いました。まず、室温での自己照射損傷による格子定数とペレット寸法変化の相関を調べ、図7-11に示すように、ペレットは結晶格子とほぼ同期して膨張し、伸び率0.3%強に飽和することを明らかにしました。

ペレット調製後、約0.3%の金属原子がα崩壊するまで(約700日)Heを蓄積させた後、焼鈍による寸法回復挙動を調べた結果を図7-12に示します。格子定数が未損傷時の値まで回復したのに対し、ペレット寸法はある程度回復した後、1160 ℃での加熱で再び膨張しました。焼鈍後のペレット破面組織を観察した結果、図7-13に示すように、結晶粒界に沿って微細な気泡の痕が密に分布していることが分かりました。このようなミクロ組織変化は、燃焼が進んだ際の核分裂生成ガス放出によるものと非常に良く似ており、MAを添加した燃料では、He拡散・放出による粒界気泡生成とスエリングが燃焼のごく初期に起こり得ることを明らかにしました。今後更に拡散係数や放出による焼結時の影響等、Heに関連したデータを取得し、燃料挙動評価に役立てていく予定です。

本研究は、文部科学省からの受託研究「MAリサイクルのための燃料挙動評価に関する共通基盤技術開発」の成果の一部です。