7-3 核変換技術の実現に向けて

−加速器駆動核変換システムの炉心設計課題への取組み−

図7-9 ADSの概念図

図7-9 ADSの概念図

超伝導陽子加速器で加速された陽子ビームを未臨界炉内の鉛ビスマス(Pb-Bi)核破砕ターゲットに当て、そこで生じる核破砕中性子を用いて、燃料領域のMAを短寿命核種に核変換します。

 

図7-10 鉛ビスマス核破砕ターゲット領域の温度分布

図7-10 鉛ビスマス核破砕ターゲット領域の温度分布

陽子ビームが入射し、核破砕反応が起きた際に生じる熱が、ビーム窓の設計に大きな影響を与えます。本研究では、陽子ビームの電流密度の形状を変え、ビーム窓の温度差を減らして熱負荷を低減することに着目し、検討を行いました。

高レベル放射性廃棄物処分の負担軽減を目的として、長寿命放射性核種を短寿命化する「核変換技術」の研究を進めています。この技術が実現すれば、放射性廃棄物を地層処分する処分場をコンパクトにすることができ、放射能の減衰に要する時間も数万年から数百年に短縮することが期待できます。特に、半減期が長く、毒性の強いマイナーアクチノイド(MA)の核変換を集中的に行う方法として、MAを主成分とした燃料で構成される未臨界の原子炉と、超伝導陽子加速器を用いて核変換を行う「加速器駆動核変換システム(ADS)」(図7-9)の研究を行っています。

ADSは加速器と未臨界炉を組み合わせた新しいシステムのため、多くの研究課題があります。その中でも未臨界炉心の設計に関する課題(1)MAを用いたときの核設計精度、(2)加速器と未臨界炉の境界(ビーム窓)の設計、はADSの成立性を考える上で非常に重要な課題です。

核設計精度については、MA核種の核データ測定実験が少ないため、計算の入力データのひとつである核データに大きな誤差が含まれると考えられることから、MAを大量に用いた場合の計算値には大きな誤差が含まれると予想されます。私たちは、核データに整備されている誤差データを用いて、得られた計算値にどのくらい誤差が含まれるかを評価し、この誤差の改善方法を検討しました[1]。その結果、誤差値は既存の高速炉の値よりも大きいことを確認しました。この精度向上の方策としてkgオーダーのMAを用いた実験を行うことで、誤差値が約40%改善することを示しました。

ビーム窓は加速器と未臨界炉の境界を成す構造物ですが、陽子による発熱や照射損傷、鉛ビスマスによる腐食等、非常に過酷な環境で使用されるため、その成立性がADSの実現可能性に大きくかかわります。私たちは、陽子輸送からビーム窓の構造解析までの一連の解析を行い、成立性の高いビーム窓概念の創出に取り組みました。その結果、T91鋼を材料とし、窓の厚さを最小2.0 mmとした部分球殻の概念に対し、電流密度が放物線分布の陽子ビームを入射することで、ビーム窓の発熱を抑えつつ十分な強度を確保できる見通しを得ました(図7-10)[2]

ADSはまだ基礎研究の段階です。そのため、核変換技術の実現に向けて、炉心設計のみならず、材料,熱流動,加速器など多岐にわたる分野について、外国の研究機関とも連携し、研究開発を行っています。