7-2 金属材料の溶融と凝固の現象を再現する

−気液二相流解析手法を固液二相流体系に拡張−

図7-7 レーザー溶接によるクラックの補修方法の例

図7-7 レーザー溶接によるクラックの補修方法の例

直径0.04 mmの微細な金属球を敷き詰めた模擬のクラック(幅0.48 mm,奥行き0.48 mm,深さ0.05 mm)の上方からレーザーを照射して金属球を溶かし、液体状にします。次に、レーザー照射を停止すると液体状の金属の温度は次第に下がります。最終的には液体状の金属が固まることによってクラックが塞がります。

 

図7-8 予測したクラック内温度分布の時間変化

図7-8 予測したクラック内温度分布の時間変化

レーザーを照射すると、(a)レーザーを照射した円形の領域で金属球の温度は上昇します。さらに、(b)金属球の温度が融点を越えると溶融が起こります。レーザーを照射してから0.5 ms経過後にレーザー照射を停止しますが、その後も余熱によって金属球の溶融は続きます。その結果、(c)金属球のほとんどは溶けて液体金属になります。時間の経過とともに液体金属の温度は徐々に低下します。(d)十分な時間が経過すると今度は凝固が起こります。

私たちは、原子力プラントの健全性を確保する補修技術の確立を目指し、三次元微細加工が可能なファイバレーザーを利用した金属材料溶接技術開発の一環として、レーザー照射による金属の溶融とレーザー照射後の金属の凝固の過程を数値解析によって再現する研究を行っています。

図7-7にレーザー溶接の概略を示します。圧力容器や伝熱管などの原子力プラント構成要素の金属表面にクラックが存在する場合、始めにクラックに微細な金属球を吹き付けます。次にレーザーによって金属球を溶かすことでクラックを塞ぎ、金属表面の補修を行います。

このプロセスを明らかにするため、これまでに開発してきた気液二相流解析手法で用いている気相と液相の相変化モデルを、固体の融点と凝固点をベースとする相変化モデルに拡張して金属の溶融凝固シミュレーションを可能にしました。解析では、出力160 Wのレーザーを金属球に対して円形状に0.5 msの間照射しました。

図7-8は解析によって得られた温度分布を示します。レーザーを照射すると、(a)レーザーが照射された円形領域で金属球の温度は上昇し、(b)金属球の融点に達すると溶融が起こります。0.5 ms経過時にレーザー照射を停止しますが、その後も余熱によって(c)金属球のほとんどは溶けて液体金属になります。更に時間が経過すると温度は徐々に低下して、(d)凝固が起こります。

本研究で示したレーザー照射による金属材料の溶融と凝固に関する複雑な物理現象を三次元数値シミュレーションによって再現する解析手法は、レーザー溶接技術の最適化を図る上で実験の代替となる必要不可欠な技術です。また、国際会議The International Symposium on Visualization in Joining & Welding Science through Advanced Measurements and Simulation(Osaka, 2010)で最優秀論文賞を受賞するなど、本研究は学会からも高く評価されています。