1-20 東京電力福島第一原子力発電所2号機の炉心損傷回避を予測

−事故進展の予測に基づいた注水回復操作の有効性検討−

図1-41 地震発生後の原子炉圧力の推移

図1-41 地震発生後の原子炉圧力の推移

原子炉圧力は比較的安定的に推移しましたが、3月14日12時頃、原子炉への注水が停止したため、圧力が上昇しました。TRAC-BF1コードはそのような圧力の時間変化について、特に注水停止後の変化を良く再現しています。

 

図1-42 炉心損傷が回避できる代替注水開始までの時間余裕の範囲

図1-42 炉心損傷が回避できる代替注水開始までの時間余裕の範囲

横軸はRCICの注水が停止した日時、縦軸は注水停止から消防車による代替注水再開までの時間を示しています。青色の部分が代替注水開始までの時間余裕を表しており、3月14日に注水を再開した1F2では、注水が約4時間早ければ炉心損傷を回避できた可能性を示しています。

東日本大震災における地震と津波により、東京電力福島第一原子力発電所(1F )では全交流電源喪失が長時間継続したため、原子炉の冷却ができず、1〜3号機(1F1〜1F3)では炉心の損傷に至りました。それぞれの原子炉での事故進展の詳細は完全には明らかになっていませんが、一部の計測データにより、主な事故進展が解明されてきています。本研究では、最も遅く炉心損傷を生じた2号機(1F2)について、原子炉内の冷却材の挙動と炉心冷却を計算する解析コードTRAC-BF1を用いて事故進展の予測を試みました。ここでは迅速に解析を行うため、出力78万kWの1F2の状態を、解析経験のある110万kW級原子炉用の解析モデルを改良することで最適予測しました。1F2では全交流電源喪失となったものの、原子炉隔離時冷却系(RCIC)による注水によって炉心の冷却が維持されたことが分かっています。このため、本解析においてもRCICによる注水と停止、その後の消防車による代替注水開始までの振る舞いを評価しました。

地震発生による原子炉停止から注水再開までの1F2の原子炉圧力について、実測値と解析値の比較を図1- 41に示します。原子炉停止後、圧力は一度大きく低下しましたが、その後はゆっくりと上昇と低下を示すなど安定的に推移しました。2011年3月14日のRCICの注水停止後に圧力は急上昇し、逃がし弁を用いた減圧操作が行われるまで高く保たれました。解析結果は安定期の圧力を過小評価していますが、変動の少ない状態を良く模擬したあと、特に注水停止後の圧力の振る舞いを良く再現しており、これらから妥当な結果が得られていることが分かります。

このような1F2の事故進展に対して、注水停止の時刻、注水を再開した時刻を変化させ、注水回復操作の有効性について検討した結果を図1- 42に示します。原子炉の炉心は燃料棒の被覆管温度が1500 Kを越えると損傷が始まると考えられます。図1- 42において、青色の領域は1500 K以下で炉心損傷が回避できると考えられる領域、赤色の実線より上は炉心損傷に至る可能性がある領域を表しています。1F2では消防車による代替注水の開始が遅れましたが、解析は、実際より約4時間早ければ、原子炉の損傷を回避できた可能性が高いことを示唆しています。このように、シビアアクシデントの発生を防止するアクシデントマネジメント策の有効性判断に役立つ情報を示すことができました。