はじめに

鈴木理事長

 

東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故から1年半以上が経過しました。環境除染と環境修復は、なお道半ばであり、国を挙げた取組みが進行中です。発電所内の現場では、損壊した施設の長期的安定化とともに、廃止措置の計画的完遂に向け粘り強い作業が毎日、進められております。

我が国で唯一の原子力に係る総合的研究開発機関である独立行政法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)としては、当然のことながら、この「福島」への技術的協力に最優先で当たる必要があると考えております。

これまでは、発電所外地域の除染や環境モニタリングなど、主として環境修復に向けた国の取組みに積極的に協力して参りました。今後は、これに加えて、政府・東京電力中長期対策会議研究開発推進本部の方針を踏まえ、発電所内の廃止措置事業に係る技術協力により多くの資源を投入して参りたいと考えております。

例えば、前者については、福島県を中心とする広域の長期的環境動態に関し統合的に調査解析した上、国による科学的に信頼されるデータの集積提供に貢献し、また、後者については、燃料デブリと総称される複雑多様な存在形態の溶融燃料に関する科学的かつ工学的取扱いに係る基礎・基盤的研究開発に着手しており、その活動を拡充して参る予定です。

更には、東京電力株式会社福島第一原子力発電所の廃止措置事業に係る技術開発は、原子力に係る国の最重要課題であることから、原子力機構が自ら進めている廃止措置計画をできるだけ前倒しし、その経験や知見を福島に有効に生かしていく方策を模索することも考える必要があろうかと感じております。

東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の深刻さは、原子力安全への一層厳しい対策の重要性を改めて提起しております。原子力機構としては、これを決して忘れるべきでない教訓とすべく、過酷事故の現象解明や事故時対策に関する研究開発,材料試験炉照射試験による安全性実証などに係る研究開発を加速的に進めるとともに、ナトリウム冷却炉や高温ガス炉などの将来炉の革新的安全性向上に係る研究を計画しております。安全研究は、原子力機構にとって当面取組むべき大きな主要テーマのひとつであり、そのための体制強化を図っているところでございます。

高速増殖原型炉「もんじゅ」,再処理,地層処分などを中心とする核燃料サイクルに係る研究開発については、現在、国は原子力政策を見直し中であり、今後の計画に関する具体的検討はその結論を待たなければなりませんが、現に存在する使用済燃料に関連する研究開発自体の必要性は変わらないと考えられ、地球的問題として国際的にも原子力機構が果たすべき役割は少なくないと考えております。

核融合研究開発と量子ビーム応用研究開発、更には、より広義な意味での先端的基礎基盤研究開発など、将来技術の創出とより高度な基礎基盤技術の創成に向けた革新技術に関する研究開発にも、鋭意、取り組んでおります。

核融合エネルギーに関する研究開発については、原子力機構は、国際熱核融合実験炉(ITER)計画の我が国における唯一の国内機関に指名され、その計画実施に当たって中核的な役割を果たしてきております。

量子ビーム応用に関する研究開発については、従来型の原子炉・加速器などの諸施設とともに、大強度陽子加速器(J-PARC)を利用した研究開発が国際的に展開されており、既に多くの注目される成果を生み出しております。

更には、外部からのご支援もいただきつつ、嘱望される若手研究者の育成を主たる目的に、先端分野に係る萌芽的研究を奨励しており、その活動は国内外から高く評価され、またその継続的かつ発展的実施が期待されております。

原子力機構における、これらの研究開発成果に関しましては、国内ばかりでなく国際的にも積極的に発信し、その普及活用を広く図ることが求められていると考えております。

本誌は、研究開発で得られた最新のトピックスを皆さまにご紹介するために、原子力機構発足以来、毎年作成しているものであり、本誌を通じて多くの方々に原子力機構の活動に関し一層のご理解をいただければ幸いでございます。

日頃よりご支援いただいている皆さま方には、この場をお借りして感謝申し上げますとともに、今後とも、私どもの研究開発活動につきまして、ご指導とご鞭撻を賜りますよう、切にお願い申し上げます。

 

2012年11月

独立行政法人

日本原子力研究開発機構

理事長

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