図1-3 本研究の調査海域と観測定点
図1-4 調査海域と堆積物0〜3 cm層中の137Cs濃度の時間変化 (2011年6月〜2013年2月)
茨城県北部沿岸域 (図1-3) は、東京電力福島第一原子力発電所 (1F) 事故後、数ヶ月にわたって比較的高い濃度の放射性セシウムを含む海水が流入したと推測されています。本研究では、この海域に定点を設けて、放射性セシウムの濃度分布や沈着状況を詳細に調査し、堆積物への放射性セシウムの輸送過程を解析しました。
1F事故後の約2年間に観測した堆積物上層(0〜3 cm層)のセシウム-137(137Cs)の濃度は16 Bq/kgから1020 Bq/kgでした(図1-4)。137Cs濃度は全体として減少傾向を示したものの、その減少は緩やかで、一時的、局所的な濃度変動が見られました。
浅海域の代表的な観測点において137Cs濃度を粒径別に測定した結果、放射性セシウムの大部分が、海流によって移動しにくい大径の粒子 (75 μm以上) として存在していた一方で、一部は海流の影響を受けて移動しやすい小径の鉱物粒子に比較的高い濃度で存在していました。局所的な放射性セシウムの濃度変動は、放射性セシウムを含む小径粒子が海水の流動に伴って移動し一時的に滞留することによってもたらしたと推測されます。
137Cs濃度を堆積物の上層(0〜3 cm層)と下層(3〜10 cm層)に分けて測定した結果、浅海域では、137Csの多くが堆積物下層に存在していることが分かりました。沖合海域に比べて粒径が大きく空隙が多い浅海域の堆積物では、(1)堆積物の間隙を通って高濃度のセシウムを含む海水が下層堆積物と作用する、(2)放射性セシウムを含む微小粒子が堆積物の空隙に取り込まれる、(3)底生生物が堆積物内部を移動する、といった過程を経て、放射性セシウムが堆積物深部に運ばれたと考えられます。
海底堆積物中の放射性セシウムを、イオン交換によって堆積物表面に弱く吸着する画分,有機物に取り込まれる画分,鉱物に強く沈着する画分に分け、各画分への分布状況を調べたところ、放射性セシウムの多くは鉱物画分に存在していました。鉱物画分は海水に溶けにくく、この特徴は海底堆積物中の放射性セシウム濃度が減少しにくい原因のひとつといえます。
本研究で浮き彫りにした放射性セシウムの海底堆積物への輸送過程と沈着状況は、放射性核種移行予測モデルに適用することにより、海底に沈着した放射性核種濃度の将来予測にも役立たせる予定です。