3-5 断層の活動時期を推定する

−K-Ar法による断層粘土の生成年代−

図3-14 断層ガウジ露頭の例(境峠断層、長野県)

図3-14 断層ガウジ露頭の例(境峠断層、長野県)

赤矢印で示した黒い帯が断層ガウジです(写真中のハンマーが長さ40 cm程度)。

 

図3-15 土岐花崗岩断層ガウジ試料の年代値の傾向

図3-15 土岐花崗岩断層ガウジ試料の年代値の傾向

粒径が小さいほど年代が若くなっていることが分かります(試料の採取深度はM252.9Rが252.9 m,M403.7Rが403.7 m)。

 

図3-16 土岐花崗岩断層ガウジ試料(M403.7R)の電子顕微鏡写真

図3-16 土岐花崗岩断層ガウジ試料(M403.7R)の電子顕微鏡写真

赤い点線で示しているのが針状のイライトです。

地層処分の安全性の検討に際しては、サイトやその周辺に分布する断層の活動性の評価が求められるため、対象となる断層の活動時期を推定することが重要です。活動時期の推定は、年代既知の地層と断層との切断関係によって判断されますが、堆積岩が分布していないところや坑道の中で遭遇した場合など、適切な地層が見つからないこともあり、断層活動によってできた物質の生成年代を推定する手法の開発が進められています。

断層が動くと、岩石同士の激しい摩擦により破砕が生じます。そのような破砕生成物の一種として、断層ガウジがあります(図3-14)。断層ガウジ内には、変質で生じた自生の粘土鉱物が含まれます。自生の粘土鉱物の生成年代が分かれば、少なくともそれ以前に断層が活動していたと推定できるので、対象鉱物の分離法と年代値の評価手法が検討されてきました。粘土鉱物のうちイライトは、40Kが崩壊して40Arになる放射壊変を利用した年代測定 (K-Ar法) を適用できます。

これまで主に堆積岩中のイライトについて、自生のイライトを分離して得られた年代値を評価する手法が研究されてきました。細粒の物質を濃集した試料ほど年代が新しくなる傾向が報告されています。これを応用して断層ガウジ中のイライトの年代を得ようという研究がなされています。堆積岩中の断層のイライト年代の解釈では、低温型の結晶構造を持つイライトを自生のものと解釈しています。また、堆積岩中で晶出する場合はイライトが板状に成長するのに対して、断層活動に伴って短時間で晶出する場合は針状に成長すると考えられており、分離した試料中のイライトの形状を電子顕微鏡により観察しながら評価する手法も提案されています。

瑞浪超深地層研究所の立坑は土岐花崗岩中に掘削されていますが、その壁面の断層ガウジの試料を分析した結果、細粒になるにしたがって新しくなる年代値が得られています(図3-15)。電子顕微鏡による試料の観察では、断層活動によってできる針状のイライトが観察されており(図3-16)、年代値はこの針状のイライトの年代を反映していると考えられます。一方で、花崗岩中に存在する断層であるにもかかわらず高温型のイライトも検出されており、断層活動に伴う変質作用を解釈する上での課題もあります。これからも分析・評価が成り立つ前提条件や、試料の分離や観察の手法について、研究を進めていく予定です。