10-4 10万倍の時空間分解能を実現する超並列計算手法

−「京」が切り拓くマルチスケール核融合プラズマ乱流−

図10-9 「京」の三次元ネットワークにおける五次元空間通信最適化

図10-9 「京」の三次元ネットワークにおける五次元空間通信最適化

核融合プラズマ乱流の五次元空間計算における転置・1対1・総和といった様々な計算機間通信を最小化するために、五次元空間をいくつかのセグメントに区分けして三次元ネットワーク上に配置する手法を開発しました。これにより、通信時間の大幅な改善に成功しました。

 

図10-10 マルチスケール核融合プラズマ乱流における静電ポテンシャル揺らぎ

図10-10 マルチスケール核融合プラズマ乱流における静電ポテンシャル揺らぎ

従来は解析不可能だった、電子系揺らぎ(拡大図中に表示)とイオン系揺らぎ(全体図中に表示)を統一的に扱うマルチスケール乱流シミュレーションを実現し、二つの揺らぎ間の相互作用の解析を可能としました。

核融合プラズマの性能は電磁的な揺らぎが引き起こす乱流輸送に大きく左右されるため、その解析は核融合研究の中心的課題のひとつです。プラズマ乱流の数値解析では、五次元位相空間(三次元位置×二次元速度)における燃料プラズマの時間発展を追跡するため大規模計算が必要です。

従来は、電子系揺らぎ(波長約0.5 mm,周波数約400 kHz)とイオン系揺らぎ(波長約20 mm,周波数約10 kHz)を別々に扱えると仮定した単一スケール解析が行われてきましたが、その仮定は自明ではなく、両スケール間の相互作用の有無を明らかにすることが課題でした。両者の波長,周波数を同時に取り扱うマルチスケール解析では、約10万倍の時空間分解能が必要とされます。このマルチスケール解析を実現するためには、スーパーコンピュータ「京」(以下、「京」)のようなペタスケール超並列計算機の登場を待たなければなりませんでした。さらに、「京」の演算性能を最大限に引き出す超並列計算手法を開発する必要がありました。

「京」は複数の計算機をネットワークで接続した分散型並列計算機のため、ボトルネックとなる計算機間通信の効率化が重要となります。プラズマ乱流の五次元空間計算を並列実行するには様々な種類の通信が発生します。これらの異なる通信パターンに対しネットワーク配置のトレードオフを調査し、「京」における通信最適化手法を新たに開発しました。鍵となる着想は、それぞれの通信に関与する計算機を近接かつ独立になるように五次元空間を複数のセグメントに区分けしてネットワーク上に配置すること(図10-9)で、これにより60%超の大幅な通信時間削減に成功しました。さらに、「京」全システム規模の60万並列における0.78ペタフロップス(=1秒間に7.8×1014回の演算)という高い演算性能を達成し、電子/イオン系乱流を同時に扱うマルチスケール核融合プラズマ乱流解析を実現しました(図10-10)。これより、従来は別々に扱えると考えられてきた電子/イオン系乱流において、両スケール間の相互作用が存在し、それにより単一スケール解析とは異なる波長の揺らぎが乱流輸送を支配することが明らかになりました。本成果は国際会議(The International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis: SC13)におけるベストポスター賞をはじめ、国際的に高く評価されています。

本研究は、文部科学省「HPCI戦略プログラム分野4次世代ものづくり」の一部として実施した「次世代計算科学ソフトウェアの革新的アルゴリズムの創生と核融合プラズマ流体解析への応用」及びG8多国間国際研究協力事業「エクサスケール・コンピューティングにおける核融合シミュレーション(NuFuSE)」の支援に基づく成果です。