10-3 超高速固有値計算による超伝導シミュレーション

−実物大シミュレーションを目指して−

図10-7 超伝導自己無撞着計算コードのスピードアップ倍率。理想曲線と行列サイズ依存性

図10-7 超伝導自己無撞着計算コードのスピードアップ倍率。理想曲線と行列サイズ依存性

4096CPUコアを用いてもほとんど理想どおりの並列化効率を有しています。

 

図10-8 超高速な固有値計算によって得られた超伝導体における熱伝導率の磁場依存性

図10-8 超高速な固有値計算によって得られた超伝導体における熱伝導率の磁場依存性

磁場を上げると磁束と磁束の間が狭まっていき、熱伝導率が上昇します。

超伝導とは、ある温度以下で電気抵抗が突然ゼロとなる劇的な現象です。原子力分野では、この特性を活かして核融合炉や加速器等の巨大磁場発生コイル等に応用され、研究開発が盛んに行われています。超伝導を利用したデバイスでは、低損失化や高効率化、更には宇宙空間の強い放射線下等の極限的環境下で長時間動作するなどの自立化が可能になると考えられます。

ナノ超伝導体は、シリコン半導体に替わる新しいデバイスの舞台として注目されており、微小磁場を検出するマイクロSQUID,単一光子検出器等、様々な応用が考えられています。そのため、超伝導現象を量子力学的に取り扱うシミュレーション技術が重要です。超伝導シミュレーションでは、ハミルトニアン行列の固有値を求めて超伝導秩序変数を自己無撞着に決定する必要があります。しかしながら、実物大のナノ超伝導体の行列サイズは非常に大きく、計算量が膨大になり従来の手法では計算できませんでした。そこで私たちは、最新の大規模並列計算機に特化したアルゴリズムを組み合わせ、超高速に固有値を求めるシミュレーション技術を開発しました。

私たちは、自己無撞着計算には超並列版チェビシェフ多項式展開法,物理量計算には櫻井−杉浦法を用いて、世界最大級のサイズの超伝導シミュレーションを実施することに成功しました。その際、並列数が大きいときに表れてくる律速箇所を特に考慮して高速化及び並列化を行い、4096CPUコア並列においてもパフォーマンスの落ちない(図10-7)コードの開発を行いました。このコードを用いることで、従来の方法では非常に時間がかかる熱伝導率の磁場依存性を高速に求めることができました(図10-8)。

私たちは、ナノ超伝導体のような物理量の計算には、指定した範囲の固有値を高速に求めることのできる櫻井−杉浦法が非常に有用であることを明らかにしました。私たちのシミュレーションコードは、その高並列性からスーパーコンピュータ「京」を超えるエクサスケールの次世代スーパーコンピュータにおいても性能を発揮するであろうと予想されます。

本研究成果で開発した計算コードとスーパーコンピュータを組み合わせることで、今後実物大の超伝導デバイスのシミュレーションが可能となり、効率の良いデバイス形状探索や新しいデバイスの提案等が行われることで機能材料研究の幅が大きく広がることが期待されます。

本研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(No.24340079)「フェルミ面トポロジーが生み出す非従来型超伝導の最適化に関する理論研究」の成果の一部です。