10-2 原子力施設の地震リスク評価手法の高度化に向けて

−断層モデルと発生頻度予測を組み合わせた地震動生成法の提案−

図10-4 距離減衰式に基づく地震ハザード曲線

図10-4 距離減衰式に基づく地震ハザード曲線

地震ハザード解析は地震調査研究推進本部の手法に基づいて行い、対象敷地は大洗地区、地震動強さの指標は解放基盤面上の最大加速度としました。地震波作成の対象とするハザードレベルは、設計用の基準地震動Ssを上回り、原子力施設の安全目標である年超過頻度10-5程度となる最大加速度1100 cm/s2までの範囲としています。

 

図10-5 採取した地震波の時刻歴波形の例

拡大図(227KB)

図10-5 採取した地震波の時刻歴波形の例

異なる断層から得られた地震波は互いに異なる地震動特性を有しています。(Mj:マグニチュード,X:震源からの距離)

 

表10-1 不確実さを考慮した震源特性

感度解析で最大加速度への影響が大きいことが確認された平均応力降下量や高振動数遮断フィルタを中心に不確実さの大きさを設定しばらつき解析を実施しました。

表10-1 不確実さを考慮した震源特性

 

図10-6 震源特性と最大加速度比の関係の例(平均応力降下量)

図10-6 震源特性と最大加速度比の関係の例(平均応力降下量)

横軸は震源特性の偏差、縦軸は各地震波の最大加速度の加速度中央値に対する比の常用対数です。勾配が大きいほど最大加速度に対する震源特性の影響が大きいことを示しています。

原子力施設の地震リスク評価は、設計想定を超える地震動の発生可能性を考慮して安全を一層確実にするための強化策として有力な手段であることが期待されています。これまでに私たちが開発してきた三次元詳細解析技術を活用した地震リスク評価手法の高度化の試みとして、モンテカルロシミュレーション(MCS)を用いた地震リスク評価手法の提案を目的とし、研究開発に着手しました。従来の専門分野で分離された評価ではなく、一気通貫で個々の地震動に対するシミュレーションにより機器の損傷を評価することを目標としています。本手法のメリットは、対象とする機器が損傷しやすい地震動の震源特性の同定、また、機器間の損傷の相関などを直接評価できること等にあります。

はじめに、入力となる地震動の生成法の検討に着手しました。従来の地震リスク評価における地震動生成法は、距離減衰式による地震ハザード等に基づく経験的手法と断層モデルによる物理的手法の大きく二つに分けることができます。前者では地震動の震源特性を十分に反映できないという課題があり、後者では地震動の発生頻度を考慮できないという課題がありました。そこで、これらの課題を解決するために、両者を組み合わせた手法を考案しました。すなわち、対象敷地の距離減衰式による地震ハザードに調和し、かつ断層モデルを考慮した多数の時刻歴波形の集合(地震波群)を作成する手法を提案しました。対象敷地の地震ハザードと地震波作成範囲を図10-4に示します。作成した地震波群は、地震ハザードとの関係が明確であり、更に地震波群の各地震波は互いに異なる震源特性を有しているため、地震波の時刻歴波形と震源特性を結びつけることができるという点で地震リスク評価の精度向上に資することが期待されます。作成した地震波の例を図10-5に示します。

これまでに、原子力機構の大洗地区周辺で起こり得る地震動をMCSで発生させ、発生頻度に応じた地震波を抽出する試みを行いました。不確実さを考慮した震源特性を表10-1に示します。その結果、図10-6に示すように震源特性のうち平均応力降下量や高振動数遮断フィルタは入力の最大加速度への影響が大きいという知見が得られました。このように、震源特性が明らかな地震波群の生成により、原子力施設に影響を及ぼす地震動特性とその要因となる震源特性の分析が可能となりました。