11-1 原子力施設の核物質防護性能を確率的に表現する

−敵対者の行動を考慮した原子力施設の防護性能の定量化手法−

図11-2 EASIでのPIの計算イメージ

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図11-2 EASIでのP I の計算イメージ

n 個の障壁での敵対者の行動シナリオを示したイベントツリーと各障壁で敵対者を検知した際のP I の構成要素です。P I はすべての障壁で対応部隊が異常事態に対応する総確率です。

 

図11-3 仮想のセンサの動作イメージ

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図11-3 仮想のセンサの動作イメージ

しきい値を超える信号強度の領域では、敵対者が居るとしてセンサが作動します。第2種過誤(β)を用いると、P (D)は1-βとなります。ここで、βはしきい値までの信号+雑音の分布関数で表現されます。

 

図11-4 敵対者の攻撃シナリオ及びPIの評価例

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図11-4 敵対者の攻撃シナリオ及びP Iの評価例

(a)仮想の原子力施設に対する攻撃シナリオに従って(b)各障壁(i =1-10)でのP I の各要素(P (Di ),(P (Ci ),P (R|Ai )の性能を求めることによって(c)PP設備で敵対者の攻撃を防ぐことのできる割合(P I )が評価できます。

アメリカ同時多発テロ事件以降、核セキュリティが注目され、悪意を持った敵対者による原子力施設内の核燃料物質に対するサボタージュ(妨害破壊行為)を考慮する必要性が増加しました。一般的に、敵対者の行動を考慮した原子力施設の核物質防護(Physical Protection: PP)性能を定性的に評価しますが、これを変動性や不確実性を含めて定量的に分析・評価することで、より効果的にPP対策を行うことができます。

PP性能を評価するために、敵対者の行動がPPによって妨害される確率 (P I )に着目しました。P I を計算するツールEstimate of Adversary Sequence Interruption: EASI)のイメージを図11-2に示します。この図では、n 個の障壁での敵対者の行動シナリオと各障壁で敵対者を検知した際のP I の構成要素を描いています。ここで、P (D) はセンサ等の施設設備による検出警報の確率、P (C) は施設の警備員が施設設備の警報状態を正しく理解し、対応部隊への情報伝達を正しく行う確率、P (R|A) は警報によって、敵対者の一連の行動が完了する前に対応部隊が到着する条件付確率です。

EASIでは、P (D) 及びP (C) の値は不確実性や変動性によるばらつきを含まない評価値であり、P (R|A) の値は正規分布を用いて計算されます。PP性能をより現実的に評価するために、不確実性や変動性の影響を確率分布で表現し、EASIを拡張したP I の定量化手法を新たに考案しました。

まず、統計学の第1種過誤(α)第2種過誤(β)を用いることで、図11-3に示すようにP (D) を表現しました。信号と雑音の確率密度関数(ƒs+n)のうち、しきい値VTを超えた領域の分布関数がP (D) です。次に、対数正規分布を用いて、P (C)に影響を与えるヒューマンエラーを表現しました。また、不確実性や変動性による対応部隊の到着の幅をポアソン分布で表現し、新たなP (R|A) としました。

セキュリティ上の理由で、実際の施設のデータを用いた評価を発表することはできません。そこで、仮想の攻撃シナリオを設計し、図11-4で示すようにP I の評価を行いました。ここで、P I の各要素はシナリオに基づくデータを用いて計算し、更に正規乱数を用いることによってこれらのデータの不確実性や変動性を表現しました。このように、新たに考案した定量化手法を用いることで、P I を定量的に評価できます。