1-1 海水中における放射性ヨウ素の動きを探る

−東京電力福島第一原子力発電所事故前後におけるヨウ素129濃度の変動−

図1-3 観測点と<sup>129</sup>I濃度

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図1-3 観測点と129I濃度

1F事故前と1F事故後における表面海水の採取地点とその地点における129I濃度を示しました。10×107原子/L以上の濃度は赤色で表記しています。

原子力施設の事故等により環境中に放射性ヨウ素(I)が放出された場合、放射性Iの環境中でのふるまいを調査する必要があります。そこで私たちは、加速器質量分析装置(AMS)を用いた環境試料中のヨウ素129(129I)の測定方法を開発し、不測の事態に備え環境試料中の129Iのバックグランドレベルの調査研究を行ってきました。2011年3月に起きた東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故では放射性Iが海洋に放出されたため、この開発した測定方法と既に取得したバックグランドレベルのデータを用いて、福島周辺海域における1F事故起因の129Iを測定し、その移行過程を調査しました。

表面海水試料は、1F事故前に西部北太平洋における5地点(図1-3(a))で、1F事故後2ヶ月(図1-3(b)),4ヶ月(図1-3(c)),6ヶ月(図1-3(d))及び8ヶ月(図1-3(e))の時点で、それぞれ12地点,4地点,4地点及び2地点で採取し、AMSによる分析を行いました。

1F事故前における西部北太平洋の表面海水中の129I濃度は、(0.94〜1.83)×107 原子/Lの範囲でした。1F事故後2ヶ月から8ヶ月経過した1F周辺海域の表面海水中の129I濃度は、(1.08〜89.8)×107 原子/Lでした。このうち、最大値は4ヶ月後の観測点「c3」(図1-3(c))、最小値は2ヶ月後の観測点「b10」(図1-3(b))及び4ヶ月後の観測点「c4」(図1-3(c))で測定されました。1F事故後に観測された129I濃度は、最小値が1F事故前のそれと同じレベルであり、最大値がバックグランドと比べて約80倍上昇していました。1F周辺の狭い海域で大きな濃度変動が観測されたことは、1F周辺海域が親潮及び黒潮の流入、またそれらに伴う中規模渦の形成により複雑な流れが形成されているためではないかと考えられます。8ヶ月後における表面海水中の129I濃度は、バックグランドレベルに近くなっていますので、129I濃度レベルが時間とともに減少してきている様子も明らかになりました。

本研究で明らかとなった1F事故起因の129Iの分布状況は、放射性核種移行予測モデルに適用することにより、海洋における放射性核種濃度の将来予測に役立たせる予定です。