4-11 高エネルギーγ線の被ばく測定の信頼性を支える

−国内唯一の高エネルギーγ線校正場の開発−

図4-24 高エネルギーγ線校正場の概要

図4-24 高エネルギーγ線校正場の概要(放射線標準施設棟)

 

図4-25  計算により求めた電離箱の壁厚及びアクリル板の厚さ(薄い壁の電離箱を含む)の変化に対する校正点における線量の変化

図4-25  計算により求めた電離箱の壁厚及びアクリル板の厚さ(薄い壁の電離箱を含む)の変化に対する校正点における線量の変化

理想値は、線量に寄与する電子の量が校正点で最適な条件となった場合の値です。30 cm×30 cm,厚さ3 cmのアクリル板を挿入することで、一般的な電離箱でも線量測定が可能となります。

線量計の示す指示の信頼性は、「校正」という線量計が指示する値が正確かどうかを定期的に確認する作業を通じて確保されます。このためには、基準となる放射線のエネルギーと線量率が正確に分かった「放射線校正場」が必要です。原子力機構の放射線標準施設棟では、放射線作業者や一般公衆の被ばく線量評価の信頼性を確保するため、様々な種類の放射線,幅広いエネルギーの放射線校正場を構築・維持し、国内外に提供しています。

γ線に関しては、これまで2 MeV程度までの放射線校正場で線量計等の校正が行われてきました。しかし、沸騰水型原子炉(BWR)の冷却水系で生成する16Nからは6〜7 MeV領域のγ線が生じていますし、放射線治療で利用が進んでいる電子加速器では数10 MeVのγ線・X線が生じます。現在、広く普及した線量計で、このような高エネルギーγ線に対する被ばく線量を正確に測定するためには、2 MeV以上のγ線に対する線量計の校正を行う必要があります。しかし、我が国には、高エネルギーγ線校正場が存在しません。そこで、私たちは4 MVバンデグラフ加速器を用いた陽子ビームとフッ素ターゲット(CaF2)による核反応を利用し、図4-24に示す6〜7 MeVの高エネルギーγ線校正場を開発しました。

開発における最大の課題は、基準線量測定が、通常の条件で行えないことでした。γ線は物質と相互作用して電子を発生させ、その電子が校正場に対して線量として寄与します。γ線のエネルギーが大きくなると、空気中では電子が長い距離を移動し、理想的条件で線量測定できません。従来の測定方法は、基準線量測定に用いる測定器(電離箱)の壁厚を非常に厚くする(図4-25)など、特殊な方法が必要でした。しかし、広く普及した線量計は薄い壁しかなく、正確な校正になりません。今回、私たちは、照射場中に空気と等価な材料であるアクリル板を最適な条件で挿入して測定する方法を開発し、仮想的に線量に寄与する電子の量を調整してこの問題を解決しました。アクリル板の最適な厚さと位置は、計算シミュレーションで理想的な測定条件で得られる値と一致する条件で決定しました(図4-24及び図4-25)。

また、加速器によるビーム強度の変動は、校正点での線量の変動につながります。このため、線量モニタを使って、正確な線量決定法を確立しました。一連の開発で、国内唯一(ドイツ連邦物理工学研究所(PTB)に次いで世界で2例目)の高エネルギーγ線校正場を完成させ、施設供用を開始しています。