図4-26 SPGDの構造と照射試験の概要
図4-27 SPGDの出力電流値とγ線量率依存性
東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃炉のために、溶融した燃料が原子炉構造材などと混ざり合って固まったデブリを取出し、その性状を把握することが必要です。しかし、原子炉格納容器内は放射能が高く、人が立ち入ってデブリ取出しのために内部状況を確認することは困難です。
そこで、格納容器内部のデブリ位置などを把握する手法として、自己出力型γ線検出器(Self-Powered Gamma Detector:SPGD)を用いた放射線計測方法の開発を開始しました。SPGDは、検出信号の発生に際して外部からの電源供給を必要とせず構造が単純な放射線検出器で、γ線がエミッタに当たると、はじき出された電子が絶縁材を通過してコレクタに到達し、微弱な電流を検出することにより、放射線の強さを測定します。このため、検出部の直径を数mmの細さにでき、細く入り組んだ配管などに挿入することが可能となります(図4-26)。
1Fにおける適用の可能性を検討するため、実際の配管に挿入可能なサイズのSPGDを製作し、γ線の測定限界を調べました。エミッタの材料には効率良く電子が発生する鉛を用い、あらかじめγ線の強さが分かっている実験室に置いて、γ線の強さとSPGDの出力電流との関係を調べました。特に、エミッタの長さ及び太さを変えたものを用意し、出力電流の影響を評価しました。
その結果、γ線の出力電流はエミッタの太さよりも長さの効果が大きいことが分かりました。測定対象である1F格納容器内の放射線の強さは、最大で数10 Gy/h程度が確認されており、より炉心に近い場所では更に強い放射線が予想されます。強い放射線に対するSPGDの出力電流を計測したところ、4000 Gy/h強までの範囲で、放射線の強さと出力電流との比例関係が得られました。さらに、弱い放射線に対する測定下限を調べたところ、10 Gy/h以上のγ線に対して図中点線で示した近似曲線からのズレの平均は、破線で示すように14%程度と見積もられ、比較的良好な精度で放射線の強さを計測できることが分かりました(図4-27)。本成果により、SPGDによる測定可能範囲が1F格納容器内の放射線の強さと対応しており、放射線検出器として適用できる見通しが得られました。
今後、本研究で得られた知見を基に、1Fにある配管内への装荷を可能とするため、SPGDの構造改良等を検討しています。