図4-28 セル内キャプセル組立
図4-29 空気中における引張試験結果
図4-30 低速ひずみ試験(SSRT)より求めたSCC破面率
照射誘起応力腐食割れ(IASCC)は原子炉炉心構造材の安全を考える上で最も重要な課題のひとつです。その研究のために材料試験炉(JMTR)の炉内照射試験でIASCC挙動を再現したき裂進展試験を行うことが予定されています。この試験を実施するためは試験片をIASCCしきい値以上に予備照射し、セル内にて別の炉内試験キャプセルに再装荷し、組み立てる必要があります。
これを実現するためには、二つの課題を解決しなければなりません。一つは遠隔操作によりセル内で照射キャプセルの溶接,組立を行う技術の確立であり、もう一つは長期にわたりJMTR炉内で照射を受ける予備照射用キャプセルの構造材の健全性評価です。
まず、セル内でキャプセルを溶接するため新たにキャプセルを回転させて周溶接を行う遠隔操作型溶接機を開発しました。健全な溶接を実現するために、回転速度と溶接電流をパラメータに試行を繰り返しましたが、通常の溶接では健全な周溶接を行うことができませんでした。そこで、一周目に予熱的に溶接熱をかけ、二周目に本溶接を行う二周法溶接を行うことでキャプセルを溶接し組み立てることができるようになりました。キャプセル組立溶接作業の写真を図4-28に示します。
次に、試験片の予備照射を行う予備照射用キャプセルの構造材の健全性評価を行いました。これは予備照射を行うときには試験片だけではなくキャプセルもIASCCのしきい値以上の照射を受けることになるため、重照射を受けるキャプセル材料の健全性を確認する必要があるためです。キャプセルと同じステンレス材を使用し、JMTR炉内に20年以上設置され中性子照射量1.0〜3.9×1026 n/m2の照射を受けた材料から試験片を製作し、空気中における引張試験及び水中における低速ひずみ試験(SSRT)を実施しました。図4-29に空気中における引張試験結果を、図4-30にSSRTより求めた試験片のSCC破面率を示します。予備照射中のキャプセル外筒管温度は解析より423 Kなので、この結果と比較するとIASCCしきい値以上の重照射を受けた予備照射キャプセルの構造材は使用温度において十分な延性を示し、SCC破面を示さないことが確認されました。これら二つの課題を解決したことにより、原子炉の安全を評価するうえで重要である寿命管理の研究に必要な炉内IASCC試験を実施することが可能となりました。