図11-2 核鑑識活動における核鑑識ライブラリの位置づけ
図11-3 核物質データベースのイメージ
図11-4 核鑑識属性評価ツールによる評価結果の例
近年、核物質や放射性物質にかかわる不法取引や盗難といった不法移転やテロ行為などの不法行為が国際社会において大きな懸念事項となっており、それら不法行為の現場から押収された核物質・放射性物質の出所や使用目的などを明らかにし、刑事起訴や裁判の証拠とするための技術的手段である「核鑑識」にかかわる技術開発が各国で進められています。
核鑑識ライブラリは「核物質や放射性物質の特性や製造・使用の履歴などの情報を集約する情報基盤」と定義されています。核鑑識では、不法行為の現場から押収された核物質・放射性物質の物理的・化学的特性を分析し、分析結果を核鑑識ライブラリに登録された既存物質の情報と照合し、該当する物質の出所や本来の使用目的などを明らかにすることが求められます(図11-2)。そのため、核鑑識ライブラリは核鑑識における最も重要な要素の一つです。
核鑑識ライブラリでは国内に存在する全ての核物質・放射性物質の情報を集約した「国内核鑑識ライブラリ」を各国が開発し、実際に不法行為が発生した場合に他国からの情報照会に応じることが国際社会において求められています。そのため原子力機構では、これまでの研究開発で蓄積してきた多種多様な核物質や放射性物質の分析データ等を活用し、将来の国内核鑑識ライブラリの整備に資することを目的として、プロトタイプ核鑑識ライブラリの開発を進めています。
これまでに、プロトタイプ核鑑識ライブラリの開発として、核物質データベースのデータ項目・データ構造及びデータ操作機能の開発を完了し(図11-3)、核鑑識ライブラリによる分析データ照合と該当物質の特定のための核鑑識属性評価ツールとして、多変量解析によるデータ解析ツールを開発しています(図11-4)。
また、核鑑識国際技術ワーキンググループが主催する国際机上演習へ参加し、仮想データを使用した核鑑識ライブラリの構築とデータ照合で高い成績を収めるとともに、机上演習で得た知見を実際の核鑑識ライブラリの開発に活用する取組みも行っています。
今後は、放射性物質データベースの開発や、顕微鏡画像等のデータ照合に使用する核鑑識画像解析ツールなどの開発を実施する予定です。そして将来、我が国における核鑑識実施体制が整備された際に、原子力機構が開発したプロトタイプ核鑑識ライブラリや核鑑識データ解析ツール,これらの開発を通して得られた知見が活用されることが大きく期待されています。
本研究は、文部科学省「核セキュリティ強化推進事業費補助金」による成果の一部です。