図2-15 クリギングによって推定した放射線計数率分布の例
図2-16 図2-15を対象として計数率基準値を変化させた場合の必要最低限の測定点数
使命を終えた原子力施設が解体された後、そのサイト(敷地及び建屋等)は解放され一般利用に供されます。これをサイト解放と呼んでいます。原子力発電所などの廃止措置が増加すると見込まれる近い将来には、重要な課題となります。現在、我が国ではこのサイト解放に関する具体的な基準や手順は確立していませんが、サイト解放の際、敷地に有意な放射性物質が残存していないことを確認する必要があります。米国ではサイト解放のための標準的な測定・評価マニュアルが整備されています。その中では敷地内の限られた地点で測定された放射能濃度をもとに平均放射能濃度が評価され、それが基準となる放射能濃度以下であるか否かを判定します。この平均放射能濃度評価には、異なる地点間での放射能濃度の相関(空間的な相関)を考慮しない従来の統計的手法が採用されています。しかし、敷地内の各地点の放射能濃度には一般に空間的な相関があることが想定され、それを考慮して平均放射能濃度を評価して判断することが望ましいと考えられます。地球統計学の一つであるクリギングは、未測定地点における値を既存の測定データから空間的な相関を考慮して推定する手法です。
そこで、本研究では、サイト解放における測定・評価を支援するため、クリギングの手法を導入して、限られた測定点数の放射能濃度をもとに測定されていない点を含めた放射能濃度分布とその平均放射能濃度を推定できるようにしました。図2-15では放射能濃度評価のもととなる放射線計数率について、限られた測定データから推定した分布の例を示しています。
一方、推定した平均放射能濃度には不確かさが含まれており、この不確かさによって、実際にはサイト解放基準を満たしていないのに満たしていると判定するような過誤が発生し得ることになります。不確かさは測定点数を増やすことにより小さくなります。そして、サイト解放における安全確保を高めるためには、この過誤の確率を小さく設定した上で、それに見合う不確かさ及び必要最低限の測定点数を設定する必要があります。そこで、推定平均放射能濃度に含まれる不確かさを測定点数の関数として計算する方法及び過誤の確率に応じた必要最低限の測定点数を計算する方法を提案しました。
図2-16に図2-15を対象として計数率基準値を変化させた場合の必要最低限の測定点数を示します。クリギングの手法を適用することにより、従来の統計的手法に比べて必要最低限の測定点数が少なくなることが分かります。
本研究で得られた知見は、将来我が国のサイト解放にかかわる基準整備に貢献するものです。