図7-14 抽出クロマトグラフィによるMA分離回収
図7-15 カラムへのγ線照射及びカラム内部の可視化
使用済核燃料に含まれる半減期の長いマイナーアクチノイド(MA)を分離回収し、再び原子炉等にて照射することで、より短い寿命の核種に変える技術を分離核変換技術といいます。この技術の実現により、原子力発電により発生する廃棄物量やその毒性を大幅に低減できると期待されています。MA回収技術として、私たちは効率的で経済的に優れたシステムを構築することが可能な、抽出クロマトグラフィ技術に注目しています。
抽出クロマトグラフィ技術は、多孔質のシリカ粒子にポリマーを添着させ、MAと親和性を有する抽出剤を含浸させたものを吸着材としてカラムに充てんし、高放射性廃液中のMAをクロマトグラフィの操作にて分離する手法です(図7-14)。
本技術においては、カラム内部における崩壊熱や水素ガスの蓄積,有機物の劣化に伴う引火性若しくは発火性物質の生成が想定されます。これらの事象は、火災・爆発に進展する可能性があることから、抽出クロマトグラフィ技術の安全性を確保することを目的として、異常発生の可能性について調査を進めています。
カラム内部における水素ガスの蓄積挙動や振る舞いを評価するため、γ線を照射したカラム内部に蓄積した水素ガスのX線イメージング実験による可視化や、流体解析シミュレーションによるカラム内部における熱や気体の輸送挙動の予測を行いました。崩壊熱や水素ガスは、通液が停止すると蓄積が始まり、その後通液を再開することで蓄積したものが分離塔外部に排出可能であることが分かりました(図7-15)。カラム内における熱や水素ガスの蓄積を防ぐためには、通液を停止させないことが重要であり、ポンプの故障などによって運転が停止してしまった場合には、速やかに冷却水をカラム内に供給することで火災・爆発の要因を取り除くことが可能となります。
吸着材を構成する有機物成分の劣化生成物については、γ線照射及びα線を模擬したHe2+イオンビーム照射によって生成する物質について調査を行っています。吸着材に放射線を照射し、抽出剤やポリマーの分解によって生成した化学物質の構造を質量分析などを利用して特定しました。その結果、安全性を考慮すべき物質が吸着材上に残留しないことが明らかになり、吸着材の放射線劣化が火災・爆発の要因となり難いことが示されました。今後、さらに放射線劣化メカニズムの評価を進め、抽出クロマトグラフィ技術の安全性向上を図る予定です。