図1-7 ファイバーLIBSシステムの利用イメージ
図1-8 LIBSによって測定されたUスペクトル
東京電力福島第一原子力発電所事故で生成された燃料デブリを安全に取り出し、処理処分するためには、まずそこにどのような元素が含まれているかを知ることが重要です。しかし、損傷した炉内は高い線量の放射線にさらされているため、人どころか電子機器等も損傷を受けるので、これらを使用することはできません。
そこで私たちは、その場で元素組成分析のできるレーザー誘起ブレークダウン発光分光法(Laser Induced Breakdown Spectroscopy: LIBS)とレーザー光を搬送する光ファイバーとを組み合わせ、放射線量の高い環境の外から遠隔で元素分析を行うファイバーLIBSシステムの開発をしています(図1-7)。損傷した炉内から離れた安全な場所に設置したファイバーLIBSシステムから、耐放射線光ファイバーを通してレーザー光を燃料デブリに照射し、発生するプラズマ発光を再び同じファイバーを通して分光器に導いて、そのスペクトルを測定します。プラズマ発光のスペクトルは元素の種類によって異なります。そこで、測定されたスペクトルの違いを利用して、元素組成を分析します。耐放射線光ファイバーを活用することで、人や電子機器が放射線にさらされることなく、確実な分析が可能になります。
燃料デブリは、核燃料物質であるウラン(U)やプルトニウム(Pu),アクチノイド系元素,核分裂生成物や被覆管のジルコニウム(Zr)等を主成分とし、損傷した炉心構造体であるステンレス(鉄,クロム,ニッケル等)等も含まれています。さらに、溶融した炉心が原子炉圧力容器を貫通し原子炉格納容器に達した場合には、コンクリート(カルシウム等)等も燃料デブリに含まれていると考えられます。このように多くの元素が混在した燃料デブリをLIBSで分析するためには、装置開発だけでなく、燃料デブリの主成分である核燃料物質等のスペクトルを詳細に知ることが重要です。そこで私たちは、まずLIBSによって核燃料物質であるUのスペクトルについて波長350〜470 nmの範囲を詳細に測定し、その全容を明らかにしました(図1-8)。このスペクトルにはU以外のスペクトルも多く見られます。このようなスペクトルを多くの元素に対して測定し、データベース化することで元素組成の分析が可能になります。さらに、燃料デブリに含まれるUスペクトルとそれに混在して現れる種々の元素のスペクトルを区別し、その存在量を分析するためには、基準となる信頼性の高いUスペクトルの分光データが必要不可欠です。そこで、スペクトルの相対強度及び波長の絶対較正を行うことで、Uのスペクトル中から組成分析に利用価値の高いと思われる247本の原子スペクトルと294本の一価イオンスペクトルを抽出し、ブレークダウン分光データとしてまとめました。
今後、燃料デブリの取出しや処理処分に貢献するために、Uについては波長470〜1000 nmのスペクトルを、また、燃料デブリに含まれる種々の元素のスペクトルを測定することにより、信頼性の高いデータベースを作成していきます。
本研究は、特別会計に関する法律(エネルギー対策特別会計)に基づく文部科学省からの受託事業として、原子力機構が実施した平成25年度「次世代燃料の遠隔分析技術開発とMOX燃料による実証的研究」の成果の一部を含みます。