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1 福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発

ふくしまの環境回復と住民の早期帰還,1F廃炉に向けた研究開発

図1-1 福島研究開発部門の組織体制図(2016年10月現在)
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図1-1 福島研究開発部門の組織体制図(2016年10月現在)

 

図1-2 福島県内における福島研究開発部門の活動拠点(2016年10月現在)

図1-2 福島県内における福島研究開発部門の活動拠点(2016年10月現在)

福島研究基盤創生センターは、研究拠点として楢葉遠隔技術開発センター(楢葉町)が2015年9月に研究管理棟,2016年2月に試験棟並びに外構が完成し、本格運用を開始しました。大熊分析・研究センター(大熊町)は、主要施設(施設管理棟,第1棟,第2棟)のうち施設管理棟の建設を2016年度に開始し、2017年度内の運用開始を目指しています。廃炉国際共同研究センターは、富岡町に国際共同研究棟を建設中であり、2017年度初頭の開所後は、私たちの廃炉研究の中核的役割を果たします。福島環境安全センターは、福島県が整備した福島県環境創造センター(三春町)及び環境放射線センター(南相馬市)を拠点とし、福島県並びに国立環境研究所と施設共用しながら、これらの機関と連携して研究開発を進めています。

 

図1-3 1F廃炉作業のロードマップ概要
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図1-3 1F廃炉作業のロードマップ概要

原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が策定する戦略プラン等の方針や、中長期的な視点での現場ニーズを踏まえた上で、人材の確保・育成を視野に入れて、基礎,基盤から応用までの研究開発を実施します。また、廃炉を実施する現場への技術提供を行い、より安全性や効率性の高い廃炉の早期実現と原子力の安全性向上に貢献します。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故の対処に係る研究開発の中核組織と活動拠点

2011年3月11日の東日本大震災発生以降、原子力機構は、災害対策基本法の指定公共機関として、放射線測定など様々な形で対応するとともに、1F事故の対処に係る研究開発を行ってきました(本誌2012〜2015年版にて紹介)。また、これら1F事故の対処に係る研究開発の中核として「福島研究開発部門」を組織し(図1-1)、本誌2015年版で紹介したとおり活動拠点の整備を進めてきました。2016年に入りその形がより具体化してきました(図1-2)。

 

1Fの廃炉を推進するために必要不可欠な研究開発拠点の整備

福島研究基盤創生センターでは、1Fの廃炉等を推進するために必要不可欠な研究開発拠点として、@原子炉からの燃料デブリの取出し準備に係る技術開発,A1F廃炉に伴って発生する放射性廃棄物の処理・処分に必要な技術開発等、これらを担う二つの研究開発拠点の整備を行っています。

@にあたる施設は、楢葉遠隔技術開発センター(楢葉町)であり、2015年9月に研究管理棟が、2016年2月に試験棟並びに外構が完成し、その整備が完了するとともに、2016年度から本格運用を開始しました。Aにあたる施設は、現在建設中である大熊分析・研究センター(大熊町)です。

楢葉遠隔技術開発センターの役割は、「廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議」が定めた中長期ロードマップ(図1-3)に基づく1F廃炉の推進を主として、それを支える科学技術の向上,安全基盤の強化,地域との共生が挙げられます。廃炉の推進に向けて、作業及び作業者安全確保検討のため、1F作業現場環境を模擬し、事前の作業計画検討,作業員の教育及び遠隔操作機器の操作訓練等が可能なバーチャルリアリティ(VR)システムを整備しました。

大熊分析・研究センターは、1Fの放射性廃棄物や燃料デブリ取出し作業後に得られるデブリサンプルといった、1F由来の放射性物質の分析及び研究を担う施設であり、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が策定する戦略プラン等の方針や、中長期ロードマップの運用時期を念頭に設計を進め、主要施設(施設管理棟,第1棟,第2棟)のうち、施設管理棟の建設を2016年度に開始し、2017年度内の運用開始を目指しています。

 

国内外の英知を結集し、廃炉研究を加速するための拠点整備と取組み

廃炉国際共同研究センター(CLADS)は、私たちの廃炉研究の中核組織として2015年4月に東海地区を中心として設置されました。廃炉研究を加速するためには、国内外の英知を結集し、現状のニーズや将来予想される課題について認識を共有し、基礎基盤から実用に至る研究開発を強化する必要があります。CLADSでは国内外の大学,研究機関,産業界等の人材が交流するネットワークを形成し、産学官による廃炉に係る研究開発と人材育成を一体的に進める体制を構築することを目指しながら、廃炉に向けた研究開発に取り組んでいます。これら国内外の英知を結集する拠点として、富岡町に国際共同研究棟を建設中であり、2016年度末に竣工、2017年度初頭の開所を予定しています。

実際の核物質,放射性物質及び放射線を用いた試験研究に関しては、東海地区及び大洗地区における核物質取扱施設及び照射施設等を有効活用して研究開発に取り組んでいます。CLADSの成果からは、原子炉圧力容器(RPV)内部の溶け落ちた核燃料物質及び炉心構造材料が混ざり合った不定形混合酸化物(いわゆる燃料デブリ)の模擬物質を用いて、デブリの溶融状態を推測するアプローチの研究(トピックス1-1)や、燃料デブリ中の核燃料物質及び炉心構造材等成分の偏りや分布情報に係る各元素の存在状況を、RPVの外部からレーザー誘起ブレークダウン発光分光法を用いて分析する研究開発成果(トピックス1-2)を紹介しています。

2017年度からは、国際共同研究棟(富岡町)を中核として、私たちの有する研究施設を活用しつつ、国内外の大学,研究機関,産業界との共同研究及び情報交換を行うとともに、福島県,国際廃炉研究開発機構(IRID),NDF等と連携及び協力して、戦略プラン等の方針や中長期的な視点での現場のニーズに基づく1F廃炉の研究を推進していきます。

 

私たちが有する知見及び技術力に基づく1F廃炉へ向けた研究開発

私たちは、我が国唯一の原子力に関する総合的な研究開発機関であり、様々な知見及び技術力を有しています。これらの知見及び技術力に基づいて進めてきた1F廃炉に関係するこの1年間の研究開発成果を紹介します。

燃料デブリや炉内構造物を切断して取り出すために、遠隔操作性を有するプラズマジェットを応用した切断技術を開発し、冠水した炉内での使用や、燃料デブリのような厚い塊状のセラミックを切断・粉砕するための高出力化が可能であることを確認しました(トピックス1-3)。

事故時の炉心の溶け方を明らかにするために、スーパーコンピュータを用いたシミュレーション評価を行い、実際に起こり得る炉心溶融挙動を計算できる見通しを得ることができました(トピックス1-4)。

放射性セシウム(Cs)のRPV構造物への付着挙動メカニズム解明のための研究では、ステンレス鋼中のケイ素成分のみならず、鉄成分とも反応して化合物を形成することや、温度が上がることで一旦付着したCsが再蒸発する可能性が示唆されました(トピックス1-5)。

1Fの汚染水処理材から回収した放射性Csを安定に保管する容器の健全性評価技術開発では、ゼオライトを内包するCs吸着塔の場合、ゼオライト接触が容器の局部腐食発生の可能性を低減することを示しました(トピックス1-6)。

1Fにおいて生じたような燃料デブリの取出し後の処置法の一候補として、乾式法での使用済燃料の再処理技術を応用する技術を検討し、前処理技術である塩化物転換技術開発を行い、従来よりも低い温度で全量ウラン(U)を四塩化ウラン(UCl4)に転換、蒸留分離することに成功し、燃料デブリの処理に適用する見通しを得ることができました(トピックス1-7)。

 

ふくしまの復興・再生に向けた環境回復に係る研究開発拠点の整備

福島環境安全センターは、「福島復興再生基本方針」(2012年7月閣議決定)に基づく取組みを的確に推進するための「環境創造センター中長期取組方針」(福島県環境創造センター運営戦略会議)等に基づいて、住民が安全で安心な生活を取り戻すために必要な環境回復に係る研究開発を進めています。このため、福島環境安全センターは、福島県が整備した福島県環境創造センター(三春町)及び環境放射線センター(南相馬市)内にあり、福島県並びに国立環境研究所と施設を共用しています。具体的には、福島県環境創造センターは、モニタリング,調査・研究,情報収集・発信及び教育・研修・交流の四つの機能を有します。ここで私たちは、放射線計測技術開発、森林から河川水系に至る流域圏での放射性Csの環境中での移動状況の調査研究(環境動態研究)、除染で発生した除去土壌等の減容化・再生利用に向けた技術開発に取り組んでいます。附属施設である環境放射線センターは、原子力発電所周辺のモニタリングや安全監視の機能を担う施設ですが、ここで私たちは隣接する浜地域農業再生研究センターや福島県南相馬原子力災害対策センターと調査研究や安全監視の連携を図りながら、放射線計測技術開発を実施しています。

環境回復に係る研究開発は、福島環境安全センターを中核として行っていますが、他部門・他拠点においても意欲的に取り組んでおり、私たち全体の研究課題として、その成果を以下に紹介します。

 

環境回復に係る研究開発を行い、農林業の再開や住民の方たちが安心して生活できるように貢献

山林等を含む広範囲の放射性Csの分布の可視化及び周辺からの影響が排除された可視的かつ高精度の放射線量マップの作成を可能とするため、無人ヘリに搭載して上空から放射性Csの分布を可視化する技術の開発を進めています(トピックス1-8)。環境中の空間線量率を精度良く測定するために必要な校正条件の調査等を目的として、検出器への放射線入射方向が線量率測定へ与える影響を放射線輸送計算コードPHITS(Particle and Heavy Ion Transport code System)により解析しました(トピックス1-9)。福島の環境中の放射性Csの多くは、地表から地中方向に5 cm付近まで分布していることが分かっており、この線源分布と空間線量率の関係をスーパーコンピュータにより推定しました(トピックス1-10)。

森林内の放射性Csの分布を把握するために、落葉広葉樹の樹木内における放射性Cs濃度の測定を実施しました(トピックス1-11)。林業の再開にあたり山地での森林内の放射性Csの分布を把握する必要があるため、事故で放出された放射性Csの影響を受けた森林集水域を対象として、空間線量率を詳細に測定することで、複雑な地形を持つ山地・森林における放射性Csの沈着量分布の特徴を明らかにするとともに、地形や標高による放射性Csの沈着量の違いを探りました(トピックス1-12)。

除染で発生する除去土壌等の管理に係る負担低減に貢献するために、放射性Csの移行メカニズムの解明等を行うとともに、その成果を活かした合理的な減容方法及び再利用方策の検討を行っています。除染のための表土剥ぎ取りで生じた膨大な量の汚染土壌廃棄物を安定的に管理する方法の確立や廃棄物減容化方法の開発が強く望まれていますが、これらの問題を解決するために粘土鉱物への放射性Csの吸脱着メカニズムの解明を実験的(トピックス1-13)及び計算科学的(トピックス1-14)に進めています。

森林から生活圏への放射性Csの移行を抑制するために、ポリイオンと呼ばれる電荷を持つ高分子と粘土鉱物を用い、降雨などの自然の力を利用して、Csの移行を抑制する技術を開発しています(トピックス1-15)。事故で汚染された表土を除去した後、その場所に汚染された土壌を埋設し、さらに清浄な土壌で覆土をすれば、直接的な被ばくを防ぐとともに、放射性Csはほとんど移行せずにその場で減衰することが示され、地下水汚染防止にも有効であることが分かりました(トピックス1-16)。

放射性Csである134Cs,137Csに比べ、放射性ストロンチウム(90Sr)は分析方法が複雑であり、分析時間も要するため、効率的な分析方法が望まれています。90Srの単離までの分析作業の自動化を目的として、@湿式分解システム,A自動化学分離システム,B自動イオン交換システムの開発を行い、灰化した農畜海産物の分析を自動化しました(トピックス1-17)。

 

福島研究開発部門の研究拠点は今後、国内外の英知を結集し、ふくしまの環境回復と住民の早期帰還並びに廃炉の推進を第一とし、科学技術の向上,安全基盤の強化及び地域との共生を行っていきます。また、研究開発とその成果を福島から発信することにより、施設利用の促進につなげ、魅力のある国際的研究開発拠点を確立し、地域産業の活性化に貢献していきます。