1-9 環境中の空間線量率を精度良く測定・評価するために

−モンテカルロシミュレーションによる環境中の線量率評価−

図1-23 環境を模擬した計算体系

図1-23 環境を模擬した計算体系

土壌中に分布した放射性核種から放出されるγ線の挙動を放射線輸送計算コードPHITSで模擬し、地上高さ1 mの検出器に入射するγ線のエネルギー、入射方向を考慮して線量率を計算しました。

 

図1-24 様々なγ線照射条件

図1-24 様々なγ線照射条件

計算解析で模擬したCsI(Tl)シンチレーション検出器(13×13×20 mm3)に対する種々の照射条件を示しています。A,Bの照射条件は、線源を固定して検出器を回転することによって実現しました。

 

表1-1 様々なγ線照射条件における線量率の比較

線量率はγ線の照射条件に依存します。環境を模擬した線源(環境線源)に対する線量率との比も示しています。

表1-1 様々なγ線照射条件における線量率の比較
拡大図(82KB)

 


2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後、環境中の空間線量率等を把握するために、放射線モニタリングが継続的に実施されています。サーベイメータ等のシンチレーション結晶を有する検出器は、通常、原子力施設等の安全確保に用いられるため、線源のある一方向から放射線が入射する条件で、正確な測定に必要な校正試験が行われます。一方、1F事故で環境中に放出され、広く土壌中等に沈着した放射性セシウム等から放出される放射線は、検出器へ様々な方向から入射します。

そこで、環境中の空間線量率を精度良く測定するために必要な校正条件の調査等を目的として、検出器への放射線入射方向が線量率測定へ与える影響を放射線輸送計算コードPHITSにより解析しました。まず、土壌中に放射性核種が存在する環境をコンピュータ上で再現し(図1-23:以下「環境線源」)、検出器を地上高さ1 mに設置した条件での線量率を算出しました。検出器としては、広域の線量率測定を目的とした自動車走行サーベイ等に用いられている13×13×20 mm3の結晶を有するCsI(Tl)シンチレーション検出器を対象としました。次に、@一様な平行ビームを結晶の各面(13×13 mm2及び13×20 mm2)に照射する条件(平行ビーム照射)、A検出器を囲む全方向から等方的に照射する条件(等方照射)及びB検出器の側面のみを等方的に照射する条件(回転照射)での線量率の測定値を算出しました(図1-24)。なお、全ての計算結果は、事故直後における1F周辺での測定値(表1-1の環境線源の線量率)に対して規格化しました。

表1-1に各照射条件での線量率の計算結果を示します。検出器の13×13 mm2の面に対する平行ビーム照射条件での線量率は、環境線源に対する値よりも約17%高くなりました。一方、等方及び回転照射での線量率の測定値は、±10%以内で環境線源に対する値と一致しており、環境線源における検出器のγ線入射方向は、これらの照射条件に近いといえます。また、13×20 mm2の結晶面を平行ビームで照射する場合、環境線源による線量率を良く再現することが分かりました。この結果から、一方向からの照射条件で検出器を校正するという簡易的な方法により、十分に環境中の線量率を正確に測定できることが分かりました。

今後は、検出器の形状を変えた場合におけるγ線入射方向の測定値に与える影響等を解析していきます。