1-8 無人ヘリで上空から放射性セシウムの分布を可視化

−GAGGシンチレータ・コンプトンカメラの現地試験−

図1-21 GAGGシンチレータのアレイ2層から成る新コンプトンカメラ

図1-21 GAGGシンチレータのアレイ2層から成る新コンプトンカメラ

GAGGシンチレータとSiPM(シンチレータの信号処理用)を8×8アレイにした散乱体層と吸収体層の2層から成り、以前と比べて素子数の増加と2層間の距離の拡張が、それぞれ感度と角度分解能の向上につながりました。

 

図1-22 空間線量率分布マップ
拡大図(831KB)

図1-22 空間線量率分布マップ

地上1 mにおける空間線量率の測定結果を、(a)地上におけるサーベイメータ,(b)無人ヘリ+従来検出器,(c)無人ヘリ+新コンプトンカメラについて示しました。比較を容易にするために、ホットスポットを赤色破線の楕円で示しました。本測定結果から新コンプトンカメラを用いて精度良く測定できることが確認できました。

 


東京電力福島第一原子力発電所事故により広範囲に放出された放射性セシウム(Cs)等による汚染状況の的確な把握及び除染作業の効率化のためには、上空から広範囲を迅速に移動測定できる無人ヘリの活用が有効です。しかし、単独のシンチレータから成る従来の検出器は全ての方向からの放射線に感度を持つため、位置の誤差が80 m程度と精度に課題がありました。

そこで、無人ヘリに搭載可能でγ線の入射方向を特定可能な試作機(旧コンプトンカメラ)を基に、今回、GAGG(Ce:Gd3(Al,Ga)5O12)シンチレータシリコン・フォトマルチプライヤー(SiPM)から成る検出素子数をこれまでの4倍にした新コンプトンカメラ(図1-21)へ改良を行いました。各層4倍の検出素子数に基づく断面積の増加により、私たちの旧コンプトンカメラに比べ感度が約5倍となり、より高位置分解能となる条件でイベント選択後も統計精度の良い解析が可能となりました。また、シンチレータ2層の距離の拡張により、第1層のシンチレータから見た第2層のシンチレータサイズが小さくなり、角度分解能が約14°から約10°へ向上しました。

2015年2月に福島県浪江町の請戸川の河川敷において、予定した櫛形の測線に沿って飛ぶプログラミングフライト(計50分間)及び無人ヘリを空中の一点で静止させて測定を行うホバリングフライト(各位置15〜20分間)による測定を実施し、無人ヘリの位置と測定データを記録しました。解析では、散乱体のエネルギーが小さいイベントを選択することにより散乱角を制限して真下方向のイベントを選択しました。プログラミングフライトでは、位置情報と合わせて得られた計数率データは空間線量率へ換算後に、地理情報システムソフトウェアの内挿補間の機能を利用してマップ化しました。また、ホバリングフライトでは、散乱体と吸収体のエネルギーの和が662 keVの137Csピーク付近との条件で選択後に、再構成ソフトを利用してγ線源の位置や強度の分かる画像を得ました。

図1-22(c)はプログラミングフライトで得た地上1 mにおける空間線量率分布マップですが、比較的小さなホットスポットも検出できていることが分かります。このように、従来の無人ヘリによる測定の位置分解能が約80 mに対して、10 m程度の高位置分解能で広範囲の空間線量率分布の迅速な測定が可能になりました。

本研究は、科学技術振興機構からの受託研究「無人ヘリ搭載用散乱エネルギー認識型高位置分解能ガンマカメラの実用化開発」の成果の一部です。