1-7 燃料デブリからのウランの回収に向けて

−難溶性成分の塩化物への転換技術を開発−

図1-18 MoCl5による模擬デブリの塩素化試験の概略

図1-18 MoCl5による模擬デブリの塩素化試験の概略

(U0.5Zr0.5)O2とMoCl5を混合後、ガラス管に真空封入します。(a)これを均熱炉で573〜773 Kに加熱して塩素化した後、(b)温度勾配炉で573 Kに加熱して副生成物を蒸留分離します。

 

図1-19 MoCl5による(U0.5Zr0.5)O2塩素化試験後の生成物の粉末X線回折による分析結果

図1-19 MoCl5による(U0.5Zr0.5)O2塩素化試験後の生成物の粉末X線回折による分析結果

観測されたピークは、塩素化反応により生成したUCl4と同定されました。

 

図1-20 副生成物を蒸留分離後の生成物外観

図1-20 副生成物を蒸留分離後の生成物外観

(U0.5Zr0.5)O2の塩素化により、生成物として緑色のUCl4が得られ(図左側)、副生成物のMoOCl3及びZrCl4は低温部(図右側)に蒸留分離されました。

 


東京電力福島第一原子力発電所の事故において、溶融した燃料が固化してできた燃料デブリの処置法の検討が進められています。その一候補として、水を使わない乾式法での使用済燃料の再処理法技術を、デブリの処理に応用することが検討されています。乾式法では、溶融塩中での電気分解によって、燃料中のウラン(U)とプルトニウム(Pu)を核分裂生成物(FP)から分離して回収し、処置します。この際の大きな課題は、まず初めの処理として燃料デブリを塩化物あるいは金属に転換する技術を開発することです。

従来の使用済燃料の塩化物への転換法では、腐食性の大きい塩素ガスを873 K以上で使用するため、安全性及び構造材の腐食対策が課題となっています。一方、五塩化モリブデン(MoCl5)は、塩素ガスに比べて低温での塩素化が可能な試薬で、常温で固体であるため取扱いやすく、これを用いて塩素化すると生成物から反応副生成物を分離しやすいという特徴があります。

本研究では、MoCl5を用いた燃料デブリの塩化物転換技術を新たに提案し、基礎試験により原理的な適用性を調べました。

燃料デブリの模擬試料として粉末状及び高密度焼結体のウラン・ジルコニウム酸化物固溶体((U0.5Zr0.5)O2)を用いて、MoCl5による塩素化試験を行い、塩素化反応と生成物からの副生成物の蒸留分離(図1-18)について、反応原理を確認しました。

塩素化反応に関しては、以下の反応式に基づき、粉末状の模擬デブリでは573 Kで、高密度焼結体では773 Kで、数時間の反応でほぼ全量のUを四塩化ウラン(UCl4)に転換することに成功しました(図1-19)。

 

2(U0.5Zr0.5)O2 + 4MoCl5 → UCl4 + ZrCl4 + 4MoOCl3

 

この反応での副生成物はMoOCl3及び塩化ジルコニウム(ZrCl4)ですが、573 Kの加熱によって、これらをUCl4から蒸留分離することにも成功しました(図1-20)。

これらの結果により、MoCl5を用いた新たな燃料デブリの塩化物転換法を提案し、基礎試験により原理的に適用できることを確認しました。本手法を前工程として組み込むことで、将来乾式再処理技術を燃料デブリの処理に適用する見通しを得ることができました。

本研究は、原子力機構が国際廃炉研究開発機構の組合員として実施した経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成25年度発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備事業(燃料デブリ性状把握・処置技術の開発)」の成果の一部を含みます。