図1-15 γ線照射室内に設置した試験装置外観並びに電気化学試験装置の模式図
図1-16 吸収線量率に対する定常自然浸漬電位の変化とゼオライト接触の影響
図1-17 定常自然浸漬電位とH2O2濃度の関係
東京電力福島第一原子力発電所事故においては、海水成分を含む汚染水から放射性物質を取り除くためにKURION社製のゼオライト(Herschelite)を内包するセシウム(Cs)吸着塔が用いられました。この汚染水の処理に使用した吸着塔は、廃Cs吸着材保管容器として一時保管されています。
廃Cs吸着材保管容器の長期保管を考えた場合、放射性Csの崩壊熱による容器内温度の上昇は、容器内の残水の蒸発により残水中の塩化物イオン(Cl-)濃度を上昇させ、容器材料(ステンレス鋼,SUS316L)の局部腐食発生の可能性を高めます。また、放射性Cs等からの放射線は残水中に過酸化水素(H2O2)を生成させ、局部腐食を加速する可能性も考えられます。
このため、γ線照射下において希釈人工海水中でのステンレス鋼の電気化学試験を行い、ステンレス鋼の自然浸漬電位に与えるγ線照射の影響並びにゼオライト接触の影響を検討しました。一般的に、自然浸漬電位が上昇するほど局部腐食発生の可能性が高まることが知られています。
試験は量子科学技術研究開発機構(QST)高崎量子応用研究所にあるコバルト60γ線照射施設にて行いました。図1-15にγ線照射室内に設置した試験装置写真並びに電気化学試験装置の模式図を示します。ステンレス鋼電極表面における吸収線量率は一時保管されている保管容器底部における評価最大値(約750 Gy/h)を基準とし、より高い吸収線量率も評価しました。吸収線量率は、線源からの距離を変化させることでコントロールしました。
図1-16に吸収線量率に対する自然浸漬電位の定常値(ESP)の変化を示します。γ線照射下においては、ステンレス鋼のESPは吸収線量率の増加にしたがって上昇しました。一方で、ゼオライト接触時では、ESP上昇が抑制されることが明らかとなりました。これは、ゼオライト接触は局部腐食発生の可能性の低減につながることを示しています。
このゼオライト接触によるESP上昇抑制機構の解明のために、γ線照射試験後の水質分析を行いました。その結果、ESPは吸収線量率に依存して生成するH2O2濃度と高い相関があり、ゼオライト接触はH2O2分解を促進することで電位上昇が抑制されることを明らかにしました(図1-17)。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成25年度発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備(事故廃棄物処理・処分概念構築に係る技術検討調査)」の成果の一部です。