1-5 原子炉内の放射性セシウムはどうなっているか

−ステンレス鋼へのセシウム付着挙動を評価する−

図1-13  Csを付着させたステンレス鋼の微細組織観察結果
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図1-13  Csを付着させたステンレス鋼の微細組織観察結果

水酸化セシウム蒸気と反応させたステンレス鋼断面の微細組織観察により、Cs付着層の厚さが20 μm程度あり、SiとCsが似た分布挙動を示していることから、両者が化合物を形成していることが示唆されました。さらに、表面のみならず付着層と母相との境界領域にもCsが分布しており、除去において考慮すべきことが分かりました。

 

図1-14 Csを付着させたステンレス鋼とCsFeSiO4のXRDパターン比較

図1-14 Csを付着させたステンレス鋼とCsFeSiO4のXRDパターン比較

水酸化セシウム蒸気とステンレス鋼の反応により生成した化合物は、XRDパターン及び元素分析の結果からCsFeSiO4であることが分かりました。

 


東京電力福島第一原子力発電所におけるデブリ取出し等作業時の作業員の被ばくを管理する上では、原子炉構造物に付着した放射性セシウム(Cs)からの高エネルギー放射線による被ばくが重要となると予想されます。このため、どこにCsが付着しているのか、付着したCsをどのように除去すればよいのか、構造物を撤去する際に発生するダスト中にCsはどの程度含まれているのか、解体廃棄物中にどの程度Csが移行しているのかなどの情報が必要であり、その推定には構造物へのCs付着挙動に関する知見が必要です。ところが、このようなCsの付着挙動についてはほとんど調べられていません。

そこで私たちは、Csの付着挙動をメカニズムの面から明らかにするための研究を開始しました。これまでに、基礎的な実験として、シビアアクシデント(SA)時のCsの化学形態の一つである水酸化セシウム蒸気を、炉内構造物に多く使用されているステンレス鋼に800 ℃及び1000 ℃の高温で付着させる実験を行いました。実験はSA時に生じる多様な雰囲気条件を考慮して、水素(H2)や水(H2O)を含んだアルゴン(Ar)ガス雰囲気中で行いました。Csを付着させた試料については、断面の微細組織観察、元素分析及びX線回折(XRD)測定による存在相の同定を行いました。

これまでに、図1-13に示すように、ステンレス鋼中に不純物として含まれるケイ素(Si)とCsが付着面において同様に分布することが分かりました。さらに表面のCs付着領域の元素組成を詳細に調べたところ、Cs, 鉄(Fe),Siがほぼ同じ濃度であることが分かりました。また、図1-14に示すように、同領域のXRD測定結果は、CsFeSiO4のXRDパターンと一致したことから、Csはこれまで言われていたステンレス鋼中のSiとだけではなく、Feとも反応して化合物を形成していることが分かりました。Cs付着量については、試験温度の上昇とともに増加しましたが、水酸化セシウム蒸気が枯渇した条件では800 ℃のときよりも1000 ℃の方が低下することがあり、一旦付着したCsが再蒸発する可能性が示唆されました。このように、Csの付着メカニズムは複雑であるため、その解明のためには、CsFeSiO4の化学的安定性や、付着したCsの蒸発特性などを明らかにしていく必要があります。

今後は、雰囲気条件等をパラメータとしたCsのステンレス鋼への付着試験を実施し、構造物へのCs付着量推定のために必要なデータを蓄積していきます。また、付着したCsの除去方法やダスト対策のために必要となる水に対するCsの溶出特性や付着Csの剥離特性なども調べていく予定です。