図1-12 制御棒内のB4C(図中黄色領域)とSUSが接する面(界面)に形成された液相(図中赤色領域)の成長と溶融移行挙動
東京電力福島第一原子力発電所事故では、メルトダウンにより溶けた燃料や構造物が、原子炉格納容器下部まで達したと考えられています。これらの溶けて固まった物質が、どこにどのような状況で存在しているのかについては、今後の廃炉作業を円滑に進めるために必要な情報です。しかし、高い放射線量等のため実際に確認することは困難であり、十分な情報が得られていない状況にあります。
このような場合、コンピュータを用いたシミュレーションによる評価が非常に有効と考えられます。しかし、現在のメルトダウンが起こるような事故(過酷事故)のシミュレーション手法では、使われる仮定やモデルの妥当性が十分に検証されておらず、どのような過程や経路で移動したのか、どこにどのような状況で存在しているのかを知るための情報が十分な精度で得られない問題があります。そこで、私たちは、過酷事故時の炉内構造物の溶け方、移動の仕方を明らかにすることを目的として、新たなシミュレーション手法の開発を行っています。この手法では、スーパーコンピュータを使い仮定や簡略モデルをできるだけ使わない詳細な計算を行うことで、炉心溶融の過程や経路についての情報も知ることができると期待されます。
過酷事故時の炉心では、制御棒(ステンレス鋼: SUS)とその内部の中性子吸収材(ボロンカーバイド: B4C)等の異なる物質が接する面(界面)で化学反応が起こり、ある温度になると物質が溶ける(液相が出現する)ことが実験等から知られています。その温度は、SUS,B4Cの融点よりも大幅に低い場合があるため、開発している手法においても液相の出現や、出現した液相が下方へ落下していく様子を計算する必要があります。このような複雑な液相の出現などを計算できる方法は確立されてないため、新たに本手法に適した液相形成進展モデルと呼ぶ方法を開発しました。
図1-12に示すように、開発した手法を用いて、制御棒中の液相の出現や落下挙動を計算した結果、@制御棒とその内部の中性子吸収材界面における液相の出現,Aその液相の成長,B液相の下方への移動を計算できることを確認し、実際に起こり得る炉心内部の溶融物挙動を計算できる見通しを得ることができました。
今後は、実験結果との比較を行うことで手法の妥当性を確認するとともに、酸化反応や輻射モデル等を取り入れ、不確かさの多い溶けた燃料の分布状況等の解明へ向けて、炉心の溶け方のより正確なシミュレーションを実現して行きます。