図1-25 空間線量率計算手法の概要
図1-26 放射性Csによる空間線量率分布
図1-27 計算結果と実測値の比較
2011年に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故により多量の放射性物質が環境中に放出されました。その中でも、放射性セシウム(134Csと137Cs)は半減期が長く、長期にわたる環境への影響が懸念されています。これらの線源は、除染や台風等による土砂移動、深度方向へのCs移動によって、水平方向だけではなく深度方向にも複雑に分布するため、線源と空間線量率の関係を推定することは容易ではありません。そこで、私たちは、土壌中の134Csと137Csの水平方向、深度方向の濃度分布から容易に空間線量率を評価できる計算ツールを開発しました(図1-25)。
このツールでは、まず、評価対象の地面を最大1000万個の土壌ブロックに分割し、各ブロックの放射性Cs濃度を実測値や地表土砂移動シミュレーションの結果等に基づいて設定します。ブロックは深度方向の分割にも対応し、134Csと137Csの濃度を独立に設定可能なので、放射性Cs濃度分布を三次元的に正確に表すことができます。そして、原子力機構が開発したモンテカルロ輸送コードPHITSを用いて、線源からのγ線について空気や土壌による反射などを計算し、空間線量率を評価します。計算にスーパーコンピュータを用いることにより、短時間に高精度の空間線量率評価が可能です。例として、中心部分のブロックの地表面だけに線源(137Cs, 1 Bq/m3)が置かれた場合の1 m高さにおける空間線量率を図1-26に示します。
私たちは、水田,草原,公園等が含まれる福島県内の約80ヶ所でこのツールをテストしました。三次元放射性Cs分布を考慮した空間線量率の計算を行った結果、実測値を非常に精度良く再現することができました(図1-27)。
このツールは、空間線量率を最も効果的に低下させる除染方法を選ぶために用いたり、台風などで放射性Csを含んだ土砂が移動した際の空間線量率の変化の評価などに用いることができます。さらには、放射性Csの物理的崩壊やCsの深度方向への移動などに起因する空間線量率減少など、長期的な空間線量率の経年変化の評価にも利用することが可能です。