1-13 極微量の放射性セシウムの環境挙動を理解する

−実環境を考慮した条件下での粘土鉱物へのセシウム吸脱着挙動−

図1-31 様々な鉱物に吸着された放射性Csの強度を示すIP読み取り像
拡大図(198KB)

図1-31 様々な鉱物に吸着された放射性Csの強度を示すIP読み取り像

異なる粘土鉱物(図右下の記号)に放射性Csを吸着させたときのIP読み取り像を示します。上の数字は滴下したCs量、左の数字は反応時間、各画像右上の数字は吸着されたCsの割合です。放射性Csが風化黒雲母に濃集していることが分かります。

 

図1-32 風化黒雲母に吸着した放射性Csが試薬によってどの程度溶出したかを示すIP読み取り像
拡大図(173KB)

図1-32 風化黒雲母に吸着した放射性Csが試薬によってどの程度溶出したかを示すIP読み取り像

赤の矢印の左右は試薬に浸漬する前後でのIP読み取り像で、下の数字は浸漬後に残った放射性Csの量です。試薬は左から酢酸アンモニウム,塩化セシウム,硝酸マグネシウム,塩酸です。

 

図1-33 風化黒雲母への放射性Csの取り込みモデル

図1-33 風化黒雲母への放射性Csの取り込みモデル

フレイドエッジと呼ばれる膨潤層からCsが侵入し、Csが吸着すると層間が閉じて強く固定されます。

 


2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故は、周辺の広範囲の土地に放射能汚染をもたらし、その対策は日本の最も大きな課題の一つです。特に汚染土壌の問題は深刻で、除染のための表土剥ぎ取りで生じた膨大な量の汚染土壌廃棄物を安定的に管理する方法の確立や廃棄物減容化方法の開発が強く望まれています。そこで私たちは、粘土鉱物に放射性セシウム(Cs)が取り込まれるメカニズムの解明やその脱離法の開発を進めることで、これらの問題解決を目指しています。本研究では福島における実環境を模擬した極微量Cs条件下での粘土鉱物へのCs吸脱着挙動を調べました。

実験ではまず、土壌中に存在すると考えられる様々な粘土鉱物をその種類ごとに基板上に細かく配置し、そこに実際に存在すると考えられる極微量の放射性Csを含む水溶液を滴下して一定時間放置しました。次に、イメージングプレート(IP)と呼ばれる放射線で感光するフィルムを用いることで、試料中の放射性Csの分布を画像として得ました。この実験の結果、放射性Csは風化黒雲母に集中して吸着することが分かりました(図1-31)。この結果から、風化黒雲母を含む土壌に放射性Csを含む降雨があった場合、この鉱物に優先的に放射性Csが取り込まれることが明らかになりました。そこで次に、風化黒雲母に取り込まれた極微量の放射性Csが様々な試薬によってどのように溶出するかを同様の方法で検討しました。その結果、スメクタイトなど他の鉱物では容易に放射性Csを溶出させる酢酸アンモニウムなどの試薬でも、風化黒雲母に吸着した放射性Csの場合は全く溶出せず、鉱物そのものを溶解させるような強い酸でのみ溶出が確認されました(図1-32)。このことから極微量の放射性Csは風化黒雲母の膨潤層でない部分に非常に強く固定されており(図1-33)、一度吸着された放射性Csの環境中への再放出は容易には起こらないことが明らかになりました。

本研究結果より、土壌における放射能汚染を理解する上で風化黒雲母が非常に重要な物質であることが分かりました。例えば、風化黒雲母の有無が土壌における放射能の固定や流出など特性を大きく支配する可能性があります。今回の成果は、除染作業によって膨大に発生しつつある汚染土壌の有効な減容化や貯蔵方法の提案などにつながると期待されます。

本研究は、東京大学への委託研究「土壌粒子中の放射性セシウムの吸着と移動機構の解明」の成果の一部です。