1-12 地形による放射性セシウムの沈着量の違いを探る

−森林集水域における空間線量率分布の詳細調査−

図1-30 森林集水域の(a)鳥瞰図と(b)空間線量率分布
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図1-30 森林集水域の(a)鳥瞰図と(b)空間線量率分布

(a)の鳥瞰図は、中央の黒い線で囲んでいる部分が調査対象とした集水域を示しています。東斜め上方向から光を当てているため、標高が高く東向きの斜面でより薄い色になっています。(a)の鳥瞰図と(b)の空間線量率分布をあわせて見ると、空間線量率が(a)の黒い線で示される尾根で高く(赤い矢印で示した部分など)谷で低い傾向や、東向きの斜面で高い傾向が明確に見られます。このように、山地での放射性Csの沈着量は地形の影響を大きく受けます。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故で放出された放射性セシウム(Cs)は、その多くが周辺の山地・森林に沈着しました。1F周辺は林業の盛んな地域であることから、林業関係者の被ばく管理や生産物の汚染の評価は重要な課題です。これらを評価するためには、森林における放射性Csの沈着量の空間分布をより正確に測定する必要がありますが、山地・森林内での放射性Csの沈着量分布は、森林内部へのアクセスの難しさから直接測定が困難でした。そこで、森林の放射性Cs沈着量の評価には主に航空機モニタリングの結果が用いられていますが、航空機モニタリングは、平地を対象として開発が進められてきたため、山地のような複雑な地形で評価するための検証データが求められていました。

私たちは、1F事故で放出された放射性Csの影響を受けた森林集水域(図1-30(a))を対象として、空間線量率を詳細に測定することで、航空機モニタリングの検証に使用可能なデータを取得するとともに、複雑な地形をもつ山地・森林における放射性Csの沈着量分布の特徴を明らかにしました。空間線量率の測定には、自動車による走行サーベイで使用されているKURAMA-II(京都大学原子炉実験所で開発された、空間線量率とGPSによる位置情報を同時に得られる測定システム)を用いました。人がKURAMA-IIを背負い対象集水域を歩き回ることで集水域全体の空間線量率のデータを得ました。そのデータを地球統計学の手法を用いて解析し、図1-30(b)の空間線量率分布図を作成することができました。その結果を図1-30(a)に示す対象集水域の地形と比較することで、地形が放射性Csの沈着量分布に与える影響を明らかにしました。

放射性Csの分布は、標高が高いほど沈着量が大きく、尾根近くに留まっていることが明らかとなりました。斜面方向では数十メートル程度離れた地点でも空間線量率の大きな違いが見られ、山間部における線量の評価や放射能の蓄積量の推定においては、その空間分布を考慮することが重要であることを示すことができました。また、対象集水域の空間線量率の平均値(0.2 μSv h-1)は、航空機モニタリングで得られた値と一致しており、航空機モニタリングによる線量評価が数km範囲の平均値の評価に有効であることを、本調査結果により示すことができました。