2-1 シビアアクシデント時の格納容器内水素挙動を予測

−ROSA-SA計画における格納容器内熱水力安全研究−

図2-3 ベンチマーク解析の概要図

図2-3 ベンチマーク解析の概要図

原子炉格納容器内での水素のような軽い気体の挙動を探るために、大規模な空間での密度成層の浸食・崩壊現象の理解が大きなトピックになっています。

 

図2-4 数値解析の可視化図

図2-4 数値解析の可視化図

噴流の成層への貫入と跳ね返り流れ及び時間経過とともに成層が浸食されている様子が分かります。

 

図2-5 実験結果と数値解析の比較

図2-5 実験結果と数値解析の比較

時間経過とともに格納容器上部では成層浸食により濃度が低下し、容器中間部では逆に濃度が上昇しています。解析結果は定量的に実験値を良く再現しています。

 


軽水炉のシビアアクシデント(SA)時には、炉心損傷に伴い冷却水と燃料被覆管に含まれているジルコニウムが反応することにより水素爆発が生じる可能性があります。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故では、水素爆発により原子炉建屋が大破しました。私たちは、SA時の格納容器内熱水力現象を把握するために、Rig Of Safety Assessment Severe Accident(ROSA-SA)計画を進めており、その中には実験と数値解析による原子炉格納容器内の水素挙動現象の把握が含まれます。

格納容器内は三次元的かつ複雑な流れとなります。また、水素は軽い気体であることから容器上部などに成層化する可能性があります。欧州を中心とした研究では、格納容器を模擬した実験装置を用いて大空間内での成層化と噴流などによる成層浸食・崩壊現象に焦点を当てています。私たちは、スイスのPaul Scherrer研究所(PSI)で行われた実験に関する国際ベンチマークテストに参加して、現象理解と数値解析手法の整備及び有効性評価(Validation)に取り組みました。

PSIで行われた実験では、図2-3に示すように約90 m3を有する大容器内の上部に水素の代替としたヘリウムと空気による混合気体による3 mの密度成層を模擬し、下方から鉛直浮力噴流を衝突させ、乱流混合による成層浸食・崩壊を促しています。私たちは、コードの改良や新たなモデルの実装が比較的容易なオープンソースコードのOpenFOAMを用いて解析を行いました。図2-4に示す解析結果の可視化図では、噴流の成層への貫入とその跳ね返り流れの様子や、時間経過とともに成層が浸食されヘリウムが下方に輸送されていることが確認できます。格納容器の上部と中間部の代表的な計測点におけるヘリウム濃度の時間変化を図2-5に示します。成層浸食により格納容器上部でヘリウム濃度が低下し、容器中間部では濃度上昇が見られます。本解析結果は、安定成層内での乱流減衰効果を考慮した修正乱流モデルを適用したことで、実験結果を精度良く再現することに成功しており、国際ベンチマークテストに参加した他の研究機関の解析結果よりもヘリウム濃度の時間変化を良く再現しています。

今後は、ROSA-SA計画の中核となる大型模擬格納容器CIGMAによる実験と解析を行い、複雑な事故条件における熱水力現象のメカニズムの解明を進めていきます。