2-2 冷却材喪失事故時の燃料被覆管の変形量を評価する

−被覆管の酸化及び結晶相状態が及ぼす影響−

図2-6 (a)LOCA模擬試験装置(b)試験後試料外観及び膨れ部断面

図2-6 (a)LOCA模擬試験装置(b)試験後試料外観及び膨れ部断面

(a)石英管内部に水蒸気またはアルゴンガスを流し、赤外炉を用いて代表的なLOCA時の燃料棒の昇温速度に近い約3 K/sの昇温速度で試験燃料棒を加熱します。試験燃料棒の昇温中に、被覆管はその機械強度の低下及び燃料棒内圧の上昇によって膨れ・破裂します。(b)破裂後の被覆管の外観観察により破裂開口部面積を、膨れ部断面金相観察により最大周方向ひずみを各々計測しました。

 

図2-7  LOCA模擬破裂試験結果

図2-7  LOCA模擬破裂試験結果

図中のα,α+β,βはそれぞれジルカロイ-4の結晶相状態(α相,α+β相,β相)を表しています。(c)破裂時の被覆管応力で除した最大周方向ひずみ(k )は、破裂温度がβ相域に近づくにつれ大きくなる傾向が見られました。また、破裂温度がβ相域になると、試験雰囲気による差が見られました。(d)α相域の破裂開口部面積はβ相が存在する温度域に比べ大きい傾向が見られました。

 


発電用原子炉施設が安全に設計されていることを確認するために想定される事故の一つとして、一次系配管の破断等により原子炉から冷却材が流出する冷却材喪失事故(LOCA)があります。LOCA時に炉心水位が低下し、燃料棒がある温度に到達すると、被覆管は機械強度の低下及び燃料棒内圧の上昇によって膨れ・破裂します。また、欧州の試験施設で近年実施された、長期間使用した燃料を対象とした一部のLOCA模擬試験において、細片化した燃料ペレットが被覆管の破裂開口部から燃料棒外へ放出される現象(FFRD現象)が確認されています。細片化したペレットが燃料棒膨れ部に集積または燃料棒外で堆積すると、LOCA時の炉心の冷却可能形状維持に影響を及ぼすことが懸念されます。このような燃料ペレットの挙動には、FFRD現象の起点である、LOCA時の被覆管の膨れ・破裂が大きな影響を及ぼすと考えられます。そこで本研究では、従来十分な知見が得られていなかった、LOCA時の膨れ・破裂に伴う被覆管の膨れ量や開口部面積に及ぼす被覆管の結晶相状態及び酸化の影響を調べました。

未照射のジルカロイ-4被覆管を対象に、図2-6(a)に示す試験装置を用いてLOCA模擬破裂試験を行い、被覆管の膨れ量及び破裂開口部面積(図2-6(b))を調べました。ここで、被覆管の酸化が変形量に及ぼす影響を評価するため、試験時の燃料棒周囲の雰囲気を水蒸気またはアルゴンガスとしました。また、被覆管の結晶相状態が変形量に及ぼす影響を評価するため、試験燃料棒の初期内圧を調整して破裂温度を変化させました。

破裂時の試験燃料棒内圧の影響を排除するため、膨れ破裂直前に被覆管に生じていた公称応力で除した最大周方向ひずみ(k )は、破裂温度がβ相域に近づくにつれ大きくなる傾向が見られました(図2-7(c))。一方、破裂温度がβ相域になると、アルゴン雰囲気ではkが温度とともに大きくなり、水蒸気雰囲気では小さくなる傾向が見られました。このことから、この温度域では酸化による脆化が被覆管の膨れ挙動に影響を及ぼすことが分かりました。また、被覆管の破裂開口部面積と破裂温度の関係から、α相域の破裂開口部面積はβ相が存在する温度域に比べ大きい傾向が見られました(図2-7(d))。

本成果を利用し、今後はLOCA時の被覆管の変形量や破裂開口形状に及ぼす燃焼度の影響について評価を進める予定です。