図3-9 (a)J-PARC-E13実験装置と(b)ハイパー核の生成反応
図3-10 測定したγ線のエネルギー分布
図3-11 4ΛH と4ΛHeの質量の比較
通常の原子核では陽子と中性子を入れ替えた二つの原子核(鏡像核)の質量はほぼ同じです。これを荷電対称性と呼びます。では、奇妙な粒子と呼ばれるΛ粒子が入った原子核(ハイパー核)ではどのようになるでしょうか。Λ粒子は、陽子や中性子と同様の重粒子ですが、軽いアップ,ダウンクォークのみから構成される陽子、中性子とは異なり、やや重いストレンジクォークが1個入っています。
過去に行われたハイパー核4ΛHeのγ線測定実験の結果では、鏡像核である4ΛHの基底状態と励起状態それぞれとの質量差がほとんどなく、荷電対称性が成り立つという結果でした。しかしこの実験は、分解能,信号・ノイズ比が悪く、さらに高精度の測定による検証が必要でした。
そこで私たちは、大強度陽子加速器施設J-PARCのハドロン実験施設における実験で世界最高強度の K -中間子2.3×1010個を4He標的に照射し、4ΛHeハイパー核を生成し、高分解能のγ線測定を行う実験を提案しました。この反応は、図3-9(b)のように、K -+4He →4ΛHe+π- +γとなります。この実験のため、図3-9(a)のように106 Hz高強度ビームで動作するγ線検出器を開発し、機械式Ge結晶冷却装置,PWO(タングステン酸鉛結晶)シンチレーションカウンターによる高速バックグラウンド除去技術を開発しました。また、図3-9(a)の高運動量分解能 K - ,π- 検出器によりバックグラウンドを抑制しました。この結果、図3-10のようなγ線エネルギー分布が得られ、4ΛHeのγ線エネルギー分解能を20倍向上することに成功しました。
この実験で、私たちは図3-11のように励起状態と基底状態の質量差1.406 MeV/c2を測定しました。この高精度の実験データは、過去の実験結果(1.15 MeV/c2)を否定することとなりました。この結果、通常原子核では0.06 MeV/c2 程度であった質量差が、図3-11にある4ΛHとの比較により、ハイパー核では0.32 MeV/c2と非常に大きく異なっていることを発見しました。この大きな質量差、すなわち荷電対称性の破れからΛ粒子−中性子間とΛ粒子−陽子間に働く力がスピン状態(励起状態)によって大きく異なることが分かり、陽子,中性子,Λ粒子等の重粒子間に働く力(核力)の解明に重要なデータを提供しました。