4-3 軽水炉内高温高圧水中の腐食環境を測定する

−電気化学測定技術の開発と高温純水中の腐食環境の評価−

図4-7 電気化学試験装置の試験容器

図4-7 電気化学試験装置の試験容器

高圧を維持し、循環装置により高温水が内部を流れています。形状を最小化し、さらに内部にテフロン製の治具を挿入しました。この工夫により、BWR炉水模擬水質条件での高精度な電気化学測定を可能としました。本装置を用いて288 ℃の高温での試験を実施しました。試験圧力は、沸騰を防ぐため、あえてBWRより高い80気圧としています。

 

図4-8 抵抗値から求めた腐食速度とH2O2濃度との関係

図4-8 抵抗値から求めた腐食速度とH2O2濃度との関係

腐食速度とH2O2濃度の関係から、H2O2を含む高温水でのステンレス鋼の腐食はH2O2濃度に比例して早くなることを示しました。

 


沸騰水型軽水炉(BWR)では、応力腐食割れなどの腐食現象が関与する材料の劣化が問題となっており、そのメカニズム解明が必要です。そのためにはBWR炉水環境をより正確に模擬して電気化学測定を行うことが有効な方法の一つです。BWRの炉水は、純度が高く、288 ℃ 70気圧という高温高圧水で、さらに放射線を受けて生成する高酸化性の過酸化水素(H2O2)が存在しています。高温の純水は電気抵抗が高く、H2O2は288 ℃の高温水中では分解(1分でほぼ全て消失)し、金属と接触するとその分解が加速されることから、これまで電気化学データの取得は困難でした。そこで、この環境でのデータ取得を可能とする電気化学試験装置を開発しました。高圧を維持した試験容器(図4-7)中に高温の純水が流れており、その中に試験片を挿入して電気化学試験を行います。高い電気抵抗への対策としては、溶液部で電流が流れると発生する電圧降下を抑制するため、試験片と電極間の距離を0.3 cmへと近づけて、流れる電流の経路を短くしました。H2O2の分解への対策として、試験容器を極小化して添加部と試験部の距離を極力近づけ(8 cm)、試験容積を最小化して、H2O2の試験部への到達時間を短縮しました。さらに、接触による分解が金属より少ないテフロン製の治具を内部に挿入して、分解を抑制しました。これにより、BWR炉水を模擬した条件での高精度の電気化学データ取得を可能としました。

これを用いて、原子炉用ステンレス鋼に対して、電気化学測定法の一つである抵抗値の測定を実施しました。試験容器内に設置した2枚のステンレス鋼試験片の間に正弦波交流電圧をかけ、周波数を連続的に変えながら抵抗値を測定しました。周波数を変えることで、溶液の導電性、ステンレス鋼表面の酸化皮膜の組成や厚さ、腐食反応の速度などに応じた抵抗値が測定できます。得られた抵抗値はステンレス鋼が腐食するときに表面に流れる電流に反比例し、この電流は腐食速度に比例するため、抵抗値から腐食速度が求められます。図4-8に、ステンレス鋼の腐食速度を評価した結果を示します。腐食速度とH2O2濃度との間に比例関係があることを明らかにしました。このデータはこれまで不明だったBWR炉水中のステンレス鋼で発生する、腐食が関与する材料劣化メカニズムの解明につながる情報となることが期待されます。さらに、今後は開発した電気化学試験装置を他の電気化学パラメータ測定にも適用できるよう改良していきます。