4-7 超ウラン元素の森林から河川への移行挙動を考える

−超ウラン元素と化学的に類似する希土類元素を利用して−

図4-16 2003年11月20日から11月25日の観測結果
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図4-16 2003年11月20日から11月25日の観測結果

(a)降水量,(b)流量と溶存有機物濃度の指標である波長254 nmの紫外部吸光度(UV254),(c)La,Eu,Erの溶存態濃度の時間変化を示しています。降雨により流量が増加し、少し遅れて溶存有機物や溶存希土類元素の濃度が同時に高くなることが分かりました。

 


プルトニウム等の超ウラン元素(TRU)を含む長寿命放射性核種が、原子力施設等から自然環境に出た場合を想定した影響評価や対策検討を行う上で、国内の自然環境下での移行挙動を実証的に理解しておくことが必要となります。しかし、自然環境に存在するTRUは、大気圏内核実験由来にほとんど限られ、濃度が非常に低いため、国内の自然環境、特に地表面付近でのTRUの移行挙動に関する研究はこれまで限られていました。

そこで私たちは、自然環境中のTRUの代わりに、室内実験においてTRU と移行挙動を含め化学的に類似することが知られている希土類元素を利用することで、野外観測による移行挙動の研究を実現しました。北関東の小河川において、降雨時の河川流量,溶存有機物濃度及び溶存希土類元素(ランタン(La),ユウロピウム(Eu),エルビウム(Er)など)の濃度変動の観測を2 時間間隔の細かな時間ステップで行いました(図4-16)。その結果、降雨時に河川が増水すると、少し遅れて溶存する有機物、特に枯死した植物や落葉の成分等から成る腐植物質の濃度が増加しました。また同様に、溶存希土類元素の濃度も増加しました。溶存希土類元素濃度と溶存有機物濃度の増減の時間変化が一致していたことから、両者は一体として移動していることが分かりました。この結果は、森林土壌中に広く分布する腐植物質が、TRUの流出過程にかかわっていることを示しています。これまでの室内研究で、希土類元素と腐植物質が強く結びつく(錯形成)ことが報告されています。この結果と観測結果から、溶存希土類元素は溶存腐植物質と錯形成をし、その一部が、降雨時に溶存腐植物質とともに土壌から河川に運び出されることが分かりました。

降雨時の溶存希土類元素の形態を分析した結果、大部分は、直径1〜200 nmの粒子として存在していました。このことは、これまでの錯形成に関する研究結果によると、腐植物質と強く結びついていることを示しています。さらに、希土類元素濃度と腐植物質の特性との関係を解析した結果、腐植物質に含まれるベンゼンのような環状の構造を持つ化学物質の量が、希土類元素との錯形成に大きくかかわっていることが分かりました。超ウラン元素の森林から河川への移行挙動を考える際に役立つ知見が得られました。