5-16 量子情報通信・量子コンピューティングの実現に向けて

−炭化ケイ素中の単一光子源の探索−

図5-40 (a)SiCダイオードの外観と(b)その表面の共焦点蛍光顕微鏡像

図5-40 (a)SiCダイオードの外観と(b)その表面の共焦点蛍光顕微鏡像

(a)赤い丸で囲まれた部分がダイオードで、電気特性測定のためのチップキャリア上に固定されています。
(b)SiCダイオードの電極のすぐ外側の部分の表面を観察しています。赤い丸で囲まれた部分の中心付近に黄色く見える点が単一光子源からの発光です。

 

図5-41 光検出の時間相関測定の模式図

図5-41 光検出の時間相関測定の模式図

入射光(緑色)に対して、試料からの出力光(赤色)は、ハーフミラーを直進または90度に反射するかのどちらかにより検出器に到達します。

 

図5-42 発見した発光点の光検出の時間相関測定の結果

図5-42 発見した発光点の光検出の時間相関測定の結果

赤い点が実測値,青い線がフィッティング線を表しています。

 


次世代の技術として、従来の計算能力をはるかに超える量子コンピューティングや盗聴不可能な量子暗号通信技術が注目されています。これらの実現には、量子ビット(従来の1と0に加えて、1と0の中間状態を利用する情報単位)をどのように実現するかが鍵となります。半導体中の結晶欠陥の中には、一つの光の粒子(光子)の吸収に対して、一つの光子を放出する単一光子源として振る舞うものがあり、これを利用して量子ビットを作製しようという試みがなされています。

私たちは、炭化ケイ素(SiC)半導体に着目し、室温でも動作する単一光子源の探索を行っています。母材であるSiCはワイドバンドギャップ半導体という種類の一つで、単一光子源の発光をほとんど邪魔しないという性質を持ちます。加えて、SiCは近年パワーエレクトロニクス用の半導体として開発が進んでおり、高品質・大型ウエハが製造され、かつ、デバイス作製技術が発達していることから、量子コンピュータや量子通信デバイスを作製するという観点からも有望な半導体といえます。SiCデバイスを作製する際に行う高温処理によっても消滅しない、室温においても高輝度で発光するといった条件を満たす単一光子源を見つける必要があります。

高品質なSiCエピタキシャル基板に800 ℃でのアルミニウムイオン注入及び1800 ℃での熱処理によりp型伝導領域を形成することでpnダイオードを作製しました(図5-40(a))。室温において作製したpnダイオードの電極付近を共焦点蛍光顕微鏡で観察したところ、電極のすぐ外側に1秒あたり30万個の光子を放出する非常に高輝度な発光点が存在することを見いだしました(図5-40(b))。発光点が単一光子源であるかどうかの確認には光検出の時間相関を測定します。これは、ハーフミラーを隔てて検出器を二つ設置します(図5-41)。単一光子源は一つの光子に対し一つの光子を放出する性質を持っていますので、試料から放出される光子が同時に二つの検出器に飛び込むことはありません。つまり、それぞれの検出器が光子を検出する量とそのときの時間を測定し、二つの検出器で同時に光子が検出されなければ単一光子源であるといえます。今回見つけた発光点に対して時間相関関数測定を行ったところ、時間差ゼロのところで光検出量関数がゼロ、すなわち、同時に光子の検出はされないという結果を得ました(図5-42)。このことから、今回見いだした発光点が1800 ℃という高温熱処理を経ても消滅しない、高輝度な単一光子源であることが判明しました。今後、この単一光子源のスピン特性を明らかにすることで量子ビットとしての性質を見極めていきたいと考えています。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)(No.26286047)「炭化ケイ素中の高輝度単一発光中心のフォトン・スピン制御」の成果の一部です。