5-17 分子の回転を制御して同位体分離

−重元素にも使える新たなレーザー同位体分離法の開発−

図5-43 分子回転制御によるレーザー同位体分離法の概念図

図5-43 分子回転制御によるレーザー同位体分離法の概念図

レーザーパルス列により分子を整列させた後、分子の回転周期の同位体による差(ΔT rot)を利用して、一方の同位体分子だけが整列した状態のとき、さらにレーザーパルスを照射することで、同位体選択的な光反応を引き起こします。

 

図5-44 フェムト秒レーザーパルス列による窒素同位体選択イオン化の実験結果
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図5-44 フェムト秒レーザーパルス列による窒素同位体選択イオン化の実験結果

(a)照射レーザーパルスの時間間隔,(b)イオン収量比R のイオン化用パルスまでの遅延時間依存性を示しています。

 


一般的なレーザー同位体分離法では、同位体ごとに分子振動エネルギーが異なることに着目し、レーザー光を照射して特定の同位体を含む分子だけを選択的に振動励起し、光反応させることで、同位体を選択します。この方法では、対象同位体の質量が大きくなると分子振動エネルギー差が減少するため、重元素に対しては選択性が低下するという問題点があります。

私たちは、分子の回転を制御することで同位体を分離する、新しいレーザー同位体分離法を提案しています。この方法は、同位体分子の回転周期差を利用して同位体選択的な光反応をさせる方法です(図5-43)。フェムト秒レーザーパルスを集光して分子に照射すると、レーザー照射直後に分子軸が電場方向に揃う状態(分子整列状態:図5-43左端)が一時的に形成され、その後、回転周期(Trot)ごとに分子整列状態が再現されます。このとき、異なる同位体分子では回転周期が異なるため、一方の同位体分子だけが整列した時刻にさらにフェムト秒レーザーパルスを照射し、同位体選択的な光反応を起こします。回転周期差は、対象同位体の質量に対する依存性が小さいため、私たちの方法では、重元素に対して適用した場合でも選択性が低下しにくいという利点があります。

私たちは、この方法で同位体分離が実現することを示すため、窒素同位体分子(14N215N2)の混合ガスを用いた実験を行いました。そのガスに対し、二つの同位体分子に共通する回転周期(Tcomrot =15T14rot =14T15rotTirotiN2分子の回転周期)の間隔で四つのフェムト秒パルスを連続的に照射して分子整列を実現した後、遅延時間t 後にイオン化用レーザーパルスを照射しました(図5-44(a))。その結果、図5-44(b)に示すとおり、イオン収量比 R[= I (15N2)/I (14N2)]は遅延時間に依存し、0.49〜2.00の間で変化しました。これにより、遅延時間を調整することで、狙った同位体分子を選択的に、およそ2倍多くイオン化できることを実証しました。

今後、この研究成果を重元素同位体へと発展させることで、放射性廃棄物の処理・処分の高度化につながることが期待されます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金挑戦的萌芽研究(No.23656594)「回転コヒーレンスを利用したレーザー同位体分離の原理実証と重元素への実現性評価」、文部科学省最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム「融合光新創生ネットワーク」の成果の一部です。