5-18 光で問いかけて光で知る液体定量法

−過酷環境下高感度その場液体分析技術−

図5-45 レーザー誘起ブレイクダウンによる水溶液の発光状況

図5-45 レーザー誘起ブレイクダウンによる水溶液の発光状況

同じ条件でレーザー光を照射した場合、(a)層流フロー水柱に比べ、(b)液体薄膜ジェットでは発光が格段に強いことが分かります。さらに、液体薄膜にすることで、飛沫の飛散が抑制され、周辺への汚染を防ぐことができます。

 

図5-46 Na水溶液の濃度と発光強度の関係(検量線)

図5-46 Na水溶液の濃度と発光強度の関係(検量線)

Na水溶液の濃度と発光強度の間には良い相関関係があることが分かりました。図の直線の傾きが大きいことは感度が高いことを示しています。

 


近年、原子スペクトル分析装置の発展と普及は目覚ましく、分光分析は、各種元素の同時あるいは迅速定量が可能な誘導結合プラズマ(ICP)発光法に基づく装置が主流となっています。この方法はほとんどの元素の微量分析に適用できますが、溶液化のための複雑な前処理が必要であり、またイオン化しやすいアルカリ金属は検出しにくい等の難点があります。さらに、分析作業はオフラインで試料の採取,前処理,分析の3段階で行われ、完了するまで長時間を要するために多くの作業者の手を煩わせています。ICP発光法は、原子力発電プラント冷却水中の不純物分析や放射性廃液の組成分析に適用されていますが、作業が長引けば被ばくの危険性が増します。

これに対してレーザー誘起ブレイクダウン分光(LIBS)分析法は、レーザー光を直接測定試料に集光照射してプラズマ化するため試料の前処理が不要であり、多種類の元素を遠隔,オンラインで、かつリアルタイムに検出して定量できます。しかし、液体を対象にしたLIBS分析には、固体試料分析のときとは違った技術的な難しさがあります。溶液内部で発生させたプラズマは、周囲の水分子に発光強度及び寿命が抑制されて検出しにくく、また、気液界面でプラズマを発生させると、溶液表面の波立ちや飛沫が発光観測を困難にします。

その解決手段として、自由噴流を応用した液体ジェットLIBSを採用し、その適用性評価を行いました。層流フロー水柱(蛇口から水溶液が低速で流れ出るイメージ: 図5-45(a))、あるいは数十μm厚みの液体薄膜(加圧して水溶液が高速で平らになって噴出するイメージ: 図5-45(b))の自由表面上にパルスレーザーを照射すると、図5-45(b)のように液体薄膜ではプラズマが効率的に発生し、発光強度が飛躍的に向上することを見いだしました。この方法をNa水溶液に適用すると、良い直線性を示しました(図5-46)。直線の傾きと測定のばらつきから検出限界を評価すると、市販のICP発光装置の一般的な検出限界値である0.5 ppbをしのぐ0.1 ppbが得られました。

この方法はICP発光装置では測定困難なルビジウム(Rb)やセシウム(Cs)等のアルカリ金属にも適用できることから、今後、原子力再処理工程における放射性溶液の物質移動監視や東京電力福島第一原子力発電所事故後の汚染水監視等、高放射線量の過酷環境に活かされる技術として期待できます。

本報告は、特別会計に関する法律(エネルギー対策特別会計)に基づく文部科学省からの受託事業として、原子力機構が実施した「次世代燃料の遠隔分析技術開発とMOX燃料による実証的研究」の成果を含みます。また、本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(No.24560068)「液体超薄膜レーザー誘起ブレークダウン発光分光による混合溶存元素の高感度検出」によって実施されました。