5-5 中性子と磁場の組合せで捉えた磁場下での超伝導体の新特性

−非従来型超伝導体における磁場で増大する反強磁性−

図5-16 CePt3Siの結晶及び反強磁性磁気構造と実験の概念

図5-16 CePt3Siの結晶及び反強磁性磁気構造と実験の概念

図中のCeの赤矢印は磁気モーメントを示しています。

 

図5-17 反強磁性ピークの磁場依存性

図5-17 反強磁性ピークの磁場依存性

磁場の印加によって、反強磁性反射強度が大きく増加しています。

 


超伝導は電子間に何らかの引力が働いて、クーパー対と呼ばれる電子対が形成されることで実現します。この引力の起源として、電子−格子相互作用による格子振動を媒介としたメカニズムがBCS理論として知られていますが、非従来型超伝導体と呼ばれる物質では、格子振動に代わり、磁気揺らぎが重要であると考えられています。磁気揺らぎは磁気転移が抑制される領域で強くなりますが、実際に多くの非従来型超伝導体は磁気量子臨界点の近くで発見されています。

一方、磁気秩序と超伝導が共存するケースも発見されてきました。そのうち、セリウム(Ce)系で初めてとなる物質がCePt3Siで、c 軸方向に隣り合う磁気モーメントが反対向きに並ぶ反強磁性秩序の下で非従来型超伝導が実現します(図5-16)。このような物質では、どのような仕組みで反強磁性秩序と超伝導が共存できるのか、注目が集まっています。

外場を加えてその反応を見ることは、物質の真の姿を引き出す上で、有効な手法です。そこで今回私たちは、強磁場を加えたときの応答を見ることで、CePt3Siの反強磁性状態を調べることを考えました。中性子散乱は、反強磁性を直接観測できることに加え、その高い透過性から、磁場や低温などの特殊環境下での測定に優れています。そこで磁場下での中性子散乱実験を行うことにしました。実験は、ドイツのヘルムホルツセンターベルリン研究所のV2及びフランスのラウエ・ランジュバン研究所のIN14分光器を使用して、超伝導と反強磁性の共存状態である50 mKという低温で実施しました。隣り合うスピンが反対に並ぶ反強磁性は、一様磁場に対して不安定なため、磁場を強くすることにより消失していくことが一般的です。今回、CePt3Siの反強磁性状態では、磁場を加えていくことで反強磁性反射強度が4倍以上と大幅に増加することを発見しました(図5-17)。強度の増加は、磁気モーメントの増加を反映しています。磁場によって現れた磁気モーメントの存在は、ゼロ磁場の反強磁性状態で、秩序に加えて未知の磁気成分が隠れている可能性を示すもので、CePt3Siの反強磁性状態に特有の新たな特徴です。そのため磁気モーメント増加の仕組みを理解することが、CePt3Siでの磁性と超伝導の共存メカニズムの解明に重要な鍵となることが期待されています。

本研究は、原子力機構−フランス原子力庁−欧州超ウラン研究所の3者間での超ウラン化合物における研究協力に関する協定に基づいて実施されました。