10-1 核実験監視能力の向上を目指して

−CTBT放射性核種観測所の観測結果に対する医療用RI製造施設の影響評価−

図10-2 ベルギーの医療用RI製造施設(MIPF)から放出された133Xeの大気拡散シミュレーションの様子

図10-2 ベルギーの医療用RI製造施設(MIPF)から放出された133Xeの大気拡散シミュレーションの様子

IREのMIPFの排気筒測定データを使用し、本排気筒から放出された133Xeの大気拡散の様子を原子力機構がシミュレーションした結果の一部です。ドイツの放射性核種観測所にも133Xeが到達しています。(米国海洋大気庁(NOAA)が開発したATM解析ソフト(HYSPLIT)を使用)

 

図10-3 ドイツの放射性核種観測所で観測された133Xeの放射能濃度と原子力機構によるシミュレーション解析結果との比較

図10-3 ドイツの放射性核種観測所で観測された133Xeの放射能濃度と原子力機構によるシミュレーション解析結果との比較

133Xeの観測値が高い日は観測値と解析値が高い相関を示していることから、IREのMIPFがこの期間に同観測所で観測された133Xeの有力な放出源であることが確認できました。

 


あらゆる空間での核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)は現在未発効ですが、世界337ヶ所の監視施設から成る核実験監視のための国際監視制度が既に約85%整備され暫定運用されています。

CTBT監視対象の一つである放射性キセノンは化学的に不活性な希ガスで、地下核実験の際に他の核種と比べて地上に漏れ出す可能性が高く、かつ核実験で大量に生成されるため、地下核実験検知の指標として特に重要です。上記の国際監視制度の下、日本の高崎を含む30ヶ所(2017年5月現在)の放射性核種観測所で放射性キセノンの観測を行っています。これまでの観測結果から、数ヶ所の放射性核種観測所で放射性キセノンの一つである133Xeが高頻度かつ高い放射能濃度で観測されることが分かっています。これらの133Xeの最も有力な放出源は、核医学検査薬の原料となる放射性同位体(RI)を核分裂反応により製造する医療用RI製造施設(MIPF)と考えられています。MIPFから放出される133Xeが放射性核種観測所の観測結果に与える影響を評価することは、観測された133XeがMIPF等の民生用施設によるものか核実験によるものかを識別する上で大変重要です。

そこで、このMIPFからの影響を、大気輸送モデル(ATM)シミュレーション解析により評価する科学プロジェクトが2015年に実施され、私たちを含む7ヶ国及びCTBT機関が参加しました。本プロジェクトでは、ベルギーのフルリュースにある国立放射性物質研究所(IRE)のMIPFの排気筒測定データ(2013年11月10日〜12月9日)を使用し、ドイツの放射性核種観測所に到達する133Xeの放射能濃度を、ATMシミュレーションにより解析評価しました。ATMシミュレーション結果を図10-2に示します。また、同観測所の観測結果と私たちの解析結果の比較を図10-3に示します。133Xeの観測値が高い日は観測値と解析値の相関が高いことから、IREのMIPFが有力な放出源であることが確認できました。一方、観測値が低い日は観測値と解析値の相関が低く、同MIPFからの放出が原因である可能性は低いことが分かりました。

私たちは、これからもCTBT機関や各国の専門機関と協力して133Xeの観測を継続するとともに民生用施設からの放出が観測結果に与える影響の評価を進め、核実験監視能力の向上に努めていきます。