2-1 原子力発電所事故時の水素ガス挙動を評価する

−浮力流れの数値流体力学解析に対するメッシュ形状の影響−

図2-3 メッシュの模式図

図2-3 メッシュの模式図

計算対象の領域を図に示すような四角形(左図)若しくは三角形(右図)のセルで分割して解析を行います。

 

図2-4 OpenFOAMによる解析結果

拡大図(268KB)

図2-4 OpenFOAMによる解析結果

(a)は四角形メッシュの解析結果を、(b)は三角形メッシュの解析結果を示します。三角形メッシュに非直交補正を適用することで、四角形メッシュの結果と同様対称的な分布が得られました(c)。また、原子力機構で開発した改良ソルバを使用することで、既存ソルバよりも高速な計算が可能となりました(d)。

 


原子力発電所の事故時には、高温に発熱した燃料棒被覆管と水との化学反応により水素が発生し、この水素が格納容器や原子炉建屋へ漏えいすることで、空気中の酸素と反応し爆発する可能性があります。このため原子炉の安全性を確保する上では事故時の水素ガス挙動を正確に評価することは重要な課題です。

格納容器や原子炉建屋は非常に大きな体積を有しており、その内部は多次元的な流れになるため、数値流体力学(CFD)による詳細な解析が必要です。また水素は非常に軽いため、その挙動を評価するためには浮力の影響を考慮する必要があります。一般にCFDコードによる解析では、対象とする空間を細かい四角形若しくは三角形のメッシュと呼ばれる計算領域で区切り、計算を行います。計算対象が格納容器のような複雑形状の場合、三角形メッシュの適用が容易で多用されますが、既往研究により、浮力流れでは三角形メッシュによる解析結果の精度が低いことが指摘されていました。そこで本研究では、三角形メッシュの浮力流れの解析への適用について検討を行いました。

二次元領域内に低温流体を満たし、領域下部から高温流体を注入し、温度差により浮力流れを模擬した計算体系に対して、図2-3に示す四角形と三角形のメッシュを適用しました。解析には汎用CFDコードであるOpenFOAMを用いました。

図2-4(a)はOpenFOAMに実装されているソルバ(以下既存ソルバ)による四角形メッシュを用いた温度の解析結果です。より細かいメッシュで解析した結果と同様、対称的な分布になっており、妥当な結果と判断できます。図2-4(b)は三角形メッシュを用いた結果を示しており、非対称分布となっています。差が生じた原因として、三角形メッシュは隣接セル間の非直交性が大きく、浮力に関する勾配項の計算精度が低いことが考えられます。これに対して、非直交補正(セル間の非直交性の影響を緩和する補正)を適用した結果が図2-4(c)であり、対称的な分布が得られました。図2-4(d)は、既存ソルバに対して浮力項への非直交性の影響を緩和する定式化を用いて、原子力機構で改良したソルバを用い、補正を適用した結果です。改良したソルバでもメッシュの非直交性の影響を緩和できており、改良ソルバは既存ソルバよりも高速な計算が可能となりました。以上より三角形メッシュを用いて、浮力流れを精度良く解析するための条件を示し、高速解析が可能となりました。今後は、本手法を応用して格納容器等の複雑形状内のCFD解析を実施する予定です。