図2-5 SA時に水中に落下する溶融物の挙動
図2-6 塊状デブリ生成割合の評価
図2-7 溶融物の床面での広がりの評価
シビアアクシデント(SA)時に原子炉圧力容器が破損すると、高温の溶融炉心が格納容器内へ落下し、溶融炉心/コンクリート相互作用(MCCI)による床の浸食で格納容器の健全性が損なわれる可能性があります。MCCIを防止・緩和するため、日本では圧力容器が破損する前に格納容器に注水する対策が講じられます。溶融炉心が水中に落下すると、冷却性の異なる3種類のデブリが生じ、また床面で広がることで水との接触面積が増大します(図2-5)。よって、冷却性評価においては各デブリの生成割合と広がり面積が重要です。これらは溶融炉心の温度、水深、水温といった条件に依存するため、私たちは様々な条件の影響を考慮できる解析手法の整備を進めており、最終的には各条件の確率分布を考慮することで溶融炉心の冷却性やMCCI防止対策の有効性を確率論的に評価することを目指しています。
本研究では、各デブリの生成割合と広がり面積を計算するため、溶融炉心/冷却水相互作用解析コードJASMINEを改良しました。
まず、溶融物の水中落下時の粒子化の計算において実験で得られた粒径分布を再現できる機能を加えました。冷えにくい大きな粒子の一部は固化せず床面に到達し、他の粒子と結合して塊状デブリを形成します。スウェーデン王立工科大学(KTH)による溶融物落下実験DEFOR-Aでは水深と塊状デブリ生成割合の関係が得られました。この実験を改良コードで解析した結果、液相粒子の割合に着目することが塊状デブリ生成割合を推定する上で有効であることを確認しました(図2-6)。
次に、床面における溶融物の広がりについて流体力学的な広がり挙動モデルと表面固化層(クラスト)形成モデルを導入しました。KTHで実施された水中床面広がり実験PULiMSの解析に改良コードを適用したところ、実験と同様に溶融物の広がりが停止し、固化物の内部に3層構造が形成されることを確認しました(図2-7)。
溶融物広がり面積の再現性向上など、課題は残されていますが、実機におけるMCCI防止対策の有効性評価に向けた手法の整備を着実に進めました。今後は溶融物から水への伝熱モデルの改良や塊状デブリ生成モデルの開発等を行う予定です。本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成27年度原子力施設等防災対策等委託費(シビアアクシデント時格納容器内溶融炉心冷却性評価技術高度化)事業」の成果の一部です。