2-6 単一U/Pu混合微粒子中プルトニウム同位体比データの取得

−核不拡散のためのα線計測と質量分析による新たなアプローチ−

図2-15 単一U/Pu混合微粒子中のPuの分析の流れ

図2-15 単一U/Pu混合微粒子中のPuの分析の流れ

単一U/Pu混合微粒子に対して、原理の全く異なる2種類の測定方法を組み合わせた新たな分析手順を開発しました。

 

図2-16 U/Pu混合微粒子(U/Pu = 5)から分離したPuを200万秒測定して得られたα線スペクトル

図2-16 U/Pu混合微粒子(U/Pu = 5)から分離したPuを200万秒測定して得られたα線スペクトル

ピークの重なりのない良好なスペクトルが得られました。

 

図2-17 238Pu/239Pu同位体比分析結果

図2-17 238Pu/239Pu同位体比分析結果

種々のU/Pu比の単一U/Pu混合微粒子に対して、正確に238Pu/239Pu同位体比を決定することができました。

 


プルトニウム(Pu)は、原子炉でウラン(U)燃料を燃焼させた際に、Uが中性子を吸収することにより生成します。このPuは、燃焼後の使用済燃料から抽出・精製され、Uと混合したU/Pu混合酸化物として、再び燃料として用いられます。このように、Puは核燃料サイクルにとって重要な物質であるとともに、一方では核兵器の原料にもなり得るため、核不拡散の上でも鍵となる物質です。私たちは国際原子力機関と協力し、世界各国の原子力関連施設でサンプリングされた環境試料について、その中に含まれる微粒子中のUやPuなどの同位体組成を明らかにし、軍事目的に利用できるような組成を有していないかを調べています。

Puには同位体として238Pu、239Pu、240Pu、241Pu、242Puなどがあります。一方、Uには同位体として234U、235U、236U、238Uなどがあります。ここで、238Puと238Uはほぼ同じ質量数ですので、同位体組成分析に用いられる質量分析ではその区別はほぼ不可能であり、これまで単一U/Pu混合微粒子中の238Puを含めたPu同位体組成を調べることは困難でした。私たちは今回、238Pu分析に対する質量分析の欠点を補うべく、α線計測を組み合わせた新たな分析技術の開発に成功しました。

開発した分析方法の概要を図2-15に示しました。単一のU/Pu混合微粒子を電子顕微鏡観察下で微細なガラス棒を用いて取り出し、酸により溶解します。次に、固相抽出分離により溶液中のPuをUから分離しPu溶液を得ます。その後、この溶液を分取し、誘導結合プラズマ質量分析及びα線計測により240Pu/239Pu及び238Pu/(239Pu+240Pu)比を測定します。これらの比から238Pu/239Puの比が計算により求められます。

図2-16には、代表例としてU/Pu混合微粒子(U/Pu = 5)から分離したPuのα線スペクトルを示しました。この結果、ピークの重なりのない良好なスペクトルが得られ、238Pu/(239Pu+240Pu)比を求めることができました。一方、質量分析においても、240Pu/239Pu、241Pu/239Pu、242Pu/239Pu比を精度良く測定することができました。これら実測値から、U/Pu比の異なるU/Pu混合微粒子(U/Pu = 0、1、5、10)各2個について238Pu/239Pu比を求めた結果を図2-17中ので示します。この実験では、Pu同位体組成の計算値があらかじめ明らかな微粒子を用いて測定を実施しましたが、全ての微粒子でその計算値(図2-17中の---)と良く一致した分析結果が得られ、本法の有効性を確認することができました。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成28年度保障措置環境分析調査」の成果の一部です。