3-4 超高速回転で普通の金属を磁石に

−アインシュタインも魅了した磁石と回転の関係を探る−

図3-8 電磁石(左図)と永久磁石(右図)

図3-8 電磁石(左図)と永久磁石(右図)

アインシュタインは永久磁石の中にも電磁石のように円運動する電気の流れがあると考えました。

 

図3-9 バーネット効果

図3-9 バーネット効果

バラバラな方向を向いている電気の円運動は、物体が回転すると図のように揃います。

 

図3-10 バーネット効果観測の実験装置

図3-10 バーネット効果観測の実験装置

金属が回転システム中で1秒間に数千回転することによって、永久磁石の性質を帯びます。そのときに発生する漏れ磁場を磁気センサーで計測し、金属中の円運動している電気の流れの強さを見積もることができます。

 


磁石には大きく分けて、コイルに電気を流すとコイルが磁石になる電磁石と電気を必要とせずに磁石の性質を示す鉄などの永久磁石があります(図3-8)。アインシュタインは、鉄などが永久磁石の性質を発現する理由を物体の中にある小さな電気の流れであると考えました。その電気の流れはコイルに流した電気のような円運動であるという発想から、物体に磁石を近づけ円運動の方向を制御することで物体自体が回転するという考えに至りました。これに伴い、生涯唯一行われたと言われる実験により、鉄に近づけた電磁石の強さを変えることで鉄自体が回転することを実証しました。この効果をアインシュタイン-ド・ハース効果といいます。同じ年にバーネットはその逆効果である物体を回転させると永久磁石の強度が変化するバーネット効果を発見しました(図3-9)。これらの実験は鉄などの永久磁石で行われましたが、金属には室温で永久磁石の性質を持たない物質の方が多いのです。

永久磁石ではない金属を回転させると何が起きるのでしょうか。私たちは、この100年間で発展した現代の技術を駆使することにより、図3-10に示す1秒間に数千回転している物質の磁石の強さをその場観察する装置を開発し、室温で永久磁石ではない普通の金属であるガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ディスプロシウム(Dy)を用いて実験を行いました。

実験の結果、いずれの金属においても回転中のみ永久磁石の性質を帯びること、回転数に磁石の強度が比例することが確認されました。これは、どの金属中でも円運動を行っている電気の流れがあることを示しています。この円運動には地球が太陽の周りを回っていることに相当する軌道運動と地球自身が回転していることに相当する自転運動の2種類があります。今回、超高速回転中の金属における磁石の強さを正確に測定することによって、Gd、Tb、Dyそれぞれにおいて軌道運動と自転運動が磁石の性質の発現にどれだけ寄与しているかを決定することに成功しました。機械的回転を使用して普通の金属におけるそれぞれの円運動の強さを決定できたのは世界で初めてです。

回転運動を用いて普通の金属の磁石の性質を制御する新しい方法を提供する本成果によって、ナノスケールの磁気と機械的回転の結びついた加速度センサーや磁気センサーの実現が期待されます。