2-5 有機溶媒火災時のHEPAフィルタの目詰まりメカニズムを解明

−再処理施設の重大事故評価手法を整備−

図2-14 (a)有機溶媒火災と(b)試験概略図

図2-14 (a)有機溶媒火災と(b)試験概略図

再処理施設で有機溶媒火災が生じた際の状況を模擬した試験を行いました。燃焼で生じた煤煙や油滴がHEPAフィルタを目詰まりさせます。試験では、フィルタの目詰まりが進むほど、差圧の測定値が大きくなっていきます。

 

図2-15 試験で測定されたHEPAフィルタ差圧の変化

図2-15 試験で測定されたHEPAフィルタ差圧の変化

ドデカンとTBPの混合溶媒を燃やすと、ドデカン成分が優先的に燃えます。ドデカンが燃え尽きるとTBPを主とした燃焼に移行し、それに伴いHEPAフィルタ差圧の急上昇、すなわち急速な目詰まりが生じます。

 


再処理施設では、使用済燃料から生じる粒子状の放射性物質を施設内に閉じ込めるHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)が備えられています。一方、使用済燃料から有用な元素を回収するため、大量の有機溶媒を用います。これはリン酸トリブチル(TBP)とドデカンの混合物であり、可燃性であることから、火災を想定する必要があります。再処理施設の安全評価では、想定を超える条件の事故(重大事故)も考慮することが重要です。

本研究の大きな目的は、このHEPAフィルタが、有機溶媒火災の状況下でどこまで破損せずに健全かを明らかにすることです。HEPAフィルタが破損すると、放射性物質の施設外への放出が想定を超えて増大し、重大事故に進展する可能性があります(図2-14(a))。

火災時においては、可燃物から発生した煤煙や油滴によってHEPAフィルタが目詰まりし、フィルタにかかる差圧が限界を超えると破損に至ると考えられます。そのため、私たちは、小型の燃焼試験装置(図2-14(b))を用いて様々な可燃性物質を燃焼させて、フィルタ差圧の変化データを取得してきました。その結果、混合溶媒の燃焼時には、鎮火直前の燃焼終盤においてフィルタ差圧が急激に上昇することを見いだしました。これは、フィルタが破損するまでの時間が従来の評価より短い可能性を示唆するため、安全評価上重要な知見です。

今回の研究では、このメカニズムを解明するため、急激な差圧上昇が生じるタイミングと燃焼に伴う溶媒組成の変化の関係を調べる試験を行いました。試験では、混ぜ合わせるTBPとドデカンの量を変化させた3種類の混合溶媒を用意しました。このとき、TBP量は30 mLで一定とし、ドデカン量を変化させました。これらの混合溶媒を燃焼させ、HEPAフィルタの差圧変化を測定しました。また、煤煙・油滴の発生量、混合溶媒の重量減少量、燃焼に伴う溶媒組成の変化を調べました。

HEPAフィルタの差圧変化を図2-15に示します。差圧は燃焼序盤に緩やかに上昇した後、燃焼終盤に急激に上昇しました。混合溶媒の燃焼では比較的燃えやすいドデカンが先に燃焼し、その後はTBPを主とした燃焼に移行すると考えられます。図2-15ではドデカンが少ない溶媒ほど、早期に差圧の急激上昇が生じており、そのタイミングはドデカンが焼失すると予想される点とほぼ一致しました。また、このタイミングで、油滴の発生量が増大することが分かりました。TBPは比較的燃えにくいため、燃焼終盤では、TBPを含む未燃の油滴が放出されることが要因と考えられます。この油滴がフィルタを閉塞させることで差圧が急激上昇する、という可能性が示唆されました。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成28年度原子力施設等防災対策等委託費(再処理施設における火災事故時影響評価試験)事業」の成果の一部です。

(大野 卓也)