図9-2 機械学習による物体周りの流れ場の予測結果
図9-3 提案した流れ場予測モデルの概念図
画像データの高精度な機械学習を実現した畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network: CNN)等を応用することで、流体シミュレーション結果を機械学習によって予測する代理モデルの構築が可能になりつつあります。代理モデルはシミュレーションに比べて計算コストが大幅に小さく、流体問題の即時予測や大規模なパラメータスキャン等において高い需要があります。しかしながら、従来の流れ場予測モデルはメモリの制約等により、5122ピクセル(格子)程度の画像サイズまでしか適用できませんでした。このため、高解像度データに対しては、部分領域毎に独立に予測を行うモデルが提案されていますが、この手法では部分予測結果の結合後の構造に不整合が生じます。
本研究では、この課題を解決するために新しい流れ場予測モデルを開発しました。CNNによる流れ場予測では符号付き距離関数(SDF、物体からの距離により物体内外を表現する関数)を入力データとして物体周りの流れ場を出力します。従来モデルでは、高解像度のSDFを部分領域毎に分割してCNNを適用していました。一方、本研究では、高解像度SDFをダウンサンプリングした低解像度SDFを用意して、分割した高解像度SDFと、全領域の低解像度SDFを組み合わせて、大域的に整合した高解像度の流れ場予測を行うことに成功しました(図9-2)。
CNNでは、複数の畳み込み層により入力データを符号化し、その後逆畳み込み層により必要な出力データへと復号(復元)します。開発したモデルは、低解像度データのCNN(G0)と高解像度データのCNN(G1)から構成されます(図9-3)。図9-2の例では、10242格子の高解像度データを学習するために5122格子の低解像度データを用意し、G0に全領域の低解像度SDF(5122)、G1に1/4領域の高解像度SDF(5122)を入力しています。ここで、G0の符号化データよりG1の予測領域と対応する部分領域(256×256)を切り出して、それと解像度が合うようにダウンサンプリングされたG1の符号化データ(256×256)と足し合わせることで、G0が保持している大域的な構造を伝えます。結合は階層的に行われ、領域全体の構造が低解像度側から与えられるため、高解像度の部分予測結果を大域的に整合させます。このような階層的なCNNは画像処理分野でも提案されていますが、低解像度CNN、高解像度CNNの両方に全領域のデータが入力されていました。本研究では、分割された高解像度データを用いることでメモリ使用量を抑えつつ高解像度の流れ場予測を行うことが可能となりました。これにより流体問題の即時予測や大規模なパラメータスキャンが実施出来ます。
本研究の一部は、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(課題番号: jh210049-MDH)の支援の下で得られた成果です。
(朝比 祐一)