3.3 流れと温度を調べて冷減速材の性能アップ


拡大図(126KB)

図3-7 核破砕ターゲットシステムの概要と冷減速材容器の構造

高エネルギー陽子ビームを水銀ターゲットに照射すると、核破砕反応によって大強度の中性子が発生します。その中性子を散乱実験に使いやすいエネルギー範囲に調整するのが減速材です。特に超臨界水素を用いる冷減速材は、高中性子性能を得るためにお弁当箱のような扁平な形にし、水素温度が上昇しないように内部構造を工夫する必要があります。

 


図3-8 冷減速材容器内流動の可視化実験・解析結果

超臨界水素を水で模擬し、PIVを使用して容器内の流動を可視化すると、渦を巻いた再循環流や流れが停滞する領域が確認できました。設計解析コードによる解析結果は実験結果を良く再現しています。

 


図3-9 陽子ビーム2 MW運転時の温度分布解析結果

検証した設計解析コードを用いて冷減速材容器内の温度分布を求めました。流れの停滞域近傍で局所的に約2 Kの温度上昇が見られます。

 


 核破砕ターゲットシステムにおいて、減速材は中性子性能を左右する重要な機器です(図3-7)。特に、超臨界水素を用いる冷減速材は世界最高の中性子性能(5×1012 n/cm2/sr/MW)を目指しており、この性能に影響を及ぼす局所的な水素温度の上昇を抑制する必要があります。そこで、設計開発中の冷減速材容器を実寸大で模擬したアクリル製試験体を製作し、レーザー流速分布測定システム(PIV: Particle Image Velocimetry)を用いて水流動条件下で容器内流動状況を測定しました。その結果、数値流動解析において示された入口管からの衝突噴流に随伴する再循環流や流れの停滞域などが明瞭に確認され、設計解析コードの妥当性を検証しました(図3-8)。
 この結果を基に、冷減速材容器内の液体水素の熱流動特性を解析評価しました。陽子ビーム出力2 MW運転時において液体水素の局所的な温度上昇を3 K以内に抑制でき、目標とする中性子性能を達成できる目処を得ました(図3-9)。この熱流動設計の成果を踏まえ、より高い中性子性能を得るために構造設計の改善を進めています。。


参考文献

T. Aso et al., Development of Cold Moderator Structure, Proc. of ICONE-7, April 19-23, 1999, Tokyo, Japan (1999).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
Copyright(c)日本原子力研究所