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汚染物質の環境中での振る舞いを予測する
―汎用環境負荷物質移行予測コード「MOGRA」―




拡大図(50KB)

図9-4 MOGRAの概念図

MOGRAではまず、評価対象となる陸域生態圏等を土地利用形態等(例えば森林、畑、水田、河川、沿岸、海洋等)により分割(モジュール化)します。各モジュールについて、例えば図9-4の上図中央のようなコンパートメントモデルを作成し、移行式や移行パラメータを入力します。次いで各モジュールを物質の流れに沿って結合し複合環境をつくります。MOGRAでは各モジュールのモデル例や仮想複合環境を標準装備していますので、それらを参考にモデルを作成できます。



図9-5 大気中に90Srが放出された場合の野菜中濃度の経時変化予測

図9-4の畑モジュールについて、畑の単位面積当たりの90Sr総沈着放射能を100 Bq/m2、野菜の生育期間を60日、90Srの放出期間を0〜10日とした場合の野菜中濃度の経時変化例。葉菜の全体濃度は10日間の放出直後に最大、内部濃度は放出終了2日後に最大、収穫時期では最大値の2%に低下することが分かります。MOGRAではフラックスの経時変化も同様に図表で得られ、パラメータの変化に対する結果を瞬時に解析できます。野菜の成長の経時変化はシグモイド曲線で近似できます。



 人間の生活圏に加えられる重金属や放射性物質等の環境負荷物質による環境影響を評価するためには、生活圏内におけるそれら物質の移行挙動を把握する必要があります。しかし、生活圏には種々の土地利用形態や土地分類(例えば森林、畑、水田、河川、湖沼、沿岸等)が混在していて、それぞれの土地における環境負荷物質の挙動も多種多様です(図9-4)。また、環境負荷物質放出量の時間変化や、農作物生育期間中の物質取り込み条件の時間変化も考慮する必要があります。このような人間の生活圏内での環境負荷物質の挙動を実用的に解析・予測するコードとして、環境負荷物質移行予測の汎用コードMOGRA(Migration Of GRound Additions)を開発しました。MOGRAはGUIを整備した汎用動的コンパートメントモデル解析コードで、人間の生活圏や負荷物質の挙動をモデル化することによって、環境負荷物質の濃度やフラックスの時間変化を評価することができます(図9-5)。MOGRAはWindows PCで運用でき、ある程度の知識があれば誰でも動かせます。また、移行挙動に関わる各パラメータ値を変えて、その変化の影響を評価できるパラメータ感度解析機能や、モデルの構造、使用する移行式や移行パラメータのリストが一覧できる報告書作成機能もあります。
 さらにMOGRAを使いやすくするため、植物への移行係数や土壌への分配係数、海産物への濃縮係数等、種々のデータベースも整備しました(MOGRA-DB)。MOGRA-DBでは画面に現れる周期律表の図から対象とする元素をクリックすると、解析に必要なパラメータの値に関する情報が得られます。さらに、評価したい地域の土地利用や土地分類の詳細等を知りたい場合は、該当する電子地図を取り込むことができ、また任意の場所の面積を計算できます(MOGRA-MAP)。
 MOGRAは汎用コードなので、生態圏の将来予測や人体内に取り込まれた有害物質の代謝の解析など生物科学的分野や、物流予測等の社会科学的分野にも展開が可能です。



参考文献
H. Amano et al., Development of a Code MOGRA for Predicting the Migration of Ground Additions and Its Application to Various Land Utilization Areas, J. Nucl. Sci. Technol., 40, 975 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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